中小企業金融安定化特別保証制度の検証

植杉 威一郎
研究員

1 はじめに

現在、行政改革の主要な柱として、政府系金融機関の再編が検討されている。また、中小企業金融への公的関与としては政府系金融機関とほぼ同規模である公的信用保証制度についても、4月から大幅な見直しが実施されている。こうした大がかりな制度変更に際しては、理論面における整理だけではなく、これまでの制度がもたらした効果についての検証が欠かせない。特に、バブル崩壊後の日本では、不良債権問題の深刻化に伴って、貸し渋り・貸し剥がし、追い貸しと呼ばれる現象が生じ、貸出市場における正常な資金配分の機能が損なわれたとされている。政府は、これに対応して様々な措置を講じ、検証対象となる施策は数多い。

しかしながら、これまでの日本では、データ、特に企業レベルの情報の入手可能性が限られており、制度の効果に関する実証的な知見は少なかった。もっとも、こうした事情は日本に限らない。公的な信用保証制度を有する米国、英国、カナダなどにおける検証でも、制度利用の有無に関する企業レベルのデータを得ることができず、必ずしも効果に関する十分な検証とはなっていない1

幸いなことに、近年の日本では、中小企業庁を中心として、中小企業に関するデータの蓄積が急速に進んでいる。今回はこれを活用し、中小企業向け貸出市場への政府による関与としては、金額・範囲共に例を見ない大規模な措置である中小企業金融安定化特別保証制度(本稿では以下「特別保証」という)を取り上げ、その効果を検証する2

2 空前の措置だった特別保証

バブル以降の不況期において、日本政府は、これまでにない規模や内容で、銀行貸出市場への介入を行ってきた。これらは、政府介入の意義を考える上で、重要な素材を提供する。中小企業を対象として実施された特別保証はその最たるものである。これは、1998年秋をピークとするパニック的な信用収縮とその結果としての中小企業倒産の増加などに対応するために、新たに設けられた制度である。規模(保証枠30兆円、当時の中小企業向け貸付額の約1割)、時限性(1998年10月から2001年3月)、審査基準(破綻、税滞納などのネガティブリストを満たさない限りにおいて信用保証提供)などのいずれにおいても、日本のみならず世界的にも例の少ない大規模な貸出市場への介入である。この制度は、当時、中小企業への直接貸付を行う政府系金融機関よりもはるかに大きな役割を果たすことが予想されていた。それだけに、政策当局では、この劇薬とも言える制度の実施に慎重な向きも少なくなかったと言われている。

具体的に、特別保証を実施する場合に想定されていた、2つの相反する効果を整理しておこう。まず、政府部門が借り手企業の信用リスクを引き受けることによって、民間金融機関による貸し渋りを緩和し、収益性の高い事業を企業が行えるようにする前向きの効果がある。1997年から98年頃の日本経済では、相次ぐ金融機関の破綻もあって銀行の貸出態度は非常に厳しく、中小企業に対する貸し渋り・貸し剥がしの事例が頻繁に報告されていた。特別保証には、厳しい銀行の貸出態度を緩和する役割が期待されていた。

しかし、同時に負の側面も懸念されていた。収益性の低い企業しか特別保証を利用しないという逆選択、銀行からモニタリングされないのに乗じて特別保証利用企業が経営努力を怠るモラルハザードがその典型である。これらの問題は、担保を提供する場合が少なく、申請件数が膨大となった特別保証制度においては、特に懸念が大きかった。実際にも、企業が「信用保証付き貸付を得て株に投資した」、「特に使い道はなかったが、借りられるというので信用保証付き貸付を得た」、「信用保証付き貸付を得て1カ月で倒産した」などという例が、新聞で報じられた。

3 効果の検証

果たして、借入制約緩和という効果と、逆選択・モラルハザード悪化という効果のいずれが勝っていたのだろうか。借入制約緩和効果が強ければ、特別保証を利用する企業全体において借入れが容易になり、これまでは制約があって実施不可能であった優良なプロジェクトを多く実施することができ、企業の利益率が向上するはずである。一方、逆選択・モラルハザードの悪化という効果が強ければ、信用力の低い企業が借入金への依存度を高め、特別保証利用企業全体において、利益率などで測った効率性が低下すると考えられる。

いずれの仮説が正しいかを検証するため、今回は、中小企業庁調査室が実施した「金融環境実態調査」の個票データなどを利用した実証分析を行う。「金融環境実態調査」では、中小企業を中心とする1万5000社を対象に、金利、担保・保証人、金融機関とのリレーションシップなど様々な資金調達に係る事項を毎年アンケート調査している。2001年の調査では、特別保証の利用の有無についても尋ねており、その項目を用いる。加えて、特別保証利用の有無を回答した企業について、利用の前後における財務諸表データも利用する。この財務諸表データは東京商工リサーチによって集められている。この結果、3488社の中小企業(うち、1344社が特別保証利用企業、2144社が非利用企業)の1997年から2003年までにおける財務指標を毎年追跡することができる。これら特別保証利用企業・非利用企業が、制度が存在していた期間の前後で、借入金や利益率といったパフォーマンス指標をどのように変化させているかを観察し、その効果を検出する。

表1は、対象サンプル企業の規模、自己資本比率、ROAなどに関する基礎統計である。1社当たりの従業員数は全サンプル平均で約73人、資産規模は約33億円である。中小法人企業の平均従業員数が約17名(2004年中小企業実態基本調査)であることを考えると、比較的規模の大きな中小企業の比率が高い。これは、分析に必要な財務諸表を毎年提出できる中小企業に規模の偏りがあるために起きる現象である。また、特別保証を利用している企業の方が、利用していない企業よりも規模が小さく、かつ、ROAなどで測られるパフォーマンスが悪いことが分かる。次に、特別保証利用企業と非利用企業が、保証が提供された期間を挟んでどのようにパフォーマンスを変化させたかを観察する。

表1 対象企業の基礎統計(平均値)

表2の一番左側の列(全サンプル)では、利用企業全体と非利用企業全体において、特別保証の実施時期を境とするpre‐crisis(1997~98年平均)からpost‐crisis(2002~03年平均)にかけて、どのように債務比率や有形固定資産比率、ROAなどが変化したかを示している。まず、債務比率、長期借入金比率が利用企業全体でより大きく増加していること、例えば、利用企業においては、債務比率の増加幅が非利用企業よりも約4%ポイント高かったことが分かる。有形固定資産比率についても、同様に利用企業で増加幅が非利用企業よりも有意に高くなっている。効率性を測る上で重要な指標であるROAについても、利用企業における増加幅が非利用企業よりも約1%ポイント高い。

表2 特別保証利用企業と非利用企業のパフォーマンスの差

もっとも、正確に特別保証の効果を測るには、利用企業全体と非利用企業全体を比較するだけではなく、以下の2点についても考慮する必要がある。第1に、利用企業と非利用企業では全体の平均的な属性が異なっている点である。非利用企業は平均的に自己資本比率が高く、金融機関に対する高い信用力を有している。彼らは特別保証に頼らなくとも金融機関から借入れが可能であるため、特別保証から得られる便益は小さい。一方、利用企業は平均的に自己資本比率が低く、特別保証無しでは金融機関から借入れられない場合が多い。このような企業にとっては、特別保証から得られる便益は大きい。非利用企業と利用企業を比較する場合には、特別保証を利用することによって得られたであろう便益(金融機関から借入れを拒絶される可能性)を等しくすることが必要である。第2に、借入制約緩和、逆選択・モラルハザードといった仮説においては、信用力の高い優良企業とそうではない企業では、借入金や効率性に及ぼす影響が異なると予想されており、この点を考慮する必要がある。従って、利用企業と非利用企業をそれぞれ自己資本比率で表される信用力で区分し、同じ自己資本比率区分における利用企業と非利用企業の差異を観察する。

この結果が、表2の右側4つの列で示されているものである。例えば、最右列の数字は、pre‐crisis(1997~98年平均)で自己資本比率が最も高い区分における特別保証利用企業と非利用企業の差を示している。全体同士を比較した一番左列の数字と同様、債務比率、長期借入金比率については、どの区分でも、利用企業が借入金比率をより増加させている。一方、ROAについては、信用力の低い企業では収益率の改善が見られないという問題点はあるが、自己資本比率が高い区分において利用企業のパフォーマンス改善幅が非利用企業を有意に上回り、全体でも同様の結果となっている。

以上から、特別保証の利用により、
・自己資本比率区分を問わず、特に長期の借入制約が緩和され、企業の債務比率が増加すること
・自己資本比率が高い(信用力の高い)企業ほど、収益率が向上する傾向があること
・全体でも企業の収益率が向上すること
が示されている。政府が企業の信用リスクを負うことによって、銀行が貸出を増やし、企業が収益性の高い事業を行うという効果が、モラルハザードや逆選択によって企業が収益性の低い事業しか行わないという効果を上回っている。特別保証は、中小企業の効率性の改善に全体としてプラスの効果があったと言える。

4 モラルハザードや逆選択の問題が相対的に小さいのはなぜか

特別保証では、ネガティブリスト方式によって信用リスクの高い企業にも信用保証が提供され、かつ、デフォルトが生じても全額が代位弁済される。この制度の下では、逆選択やモラルハザードの問題が起こりやすくなるはずである。しかし、実証結果からは、これらの問題は相対的に小さいことが示された。この理由については、いくつかの可能性が指摘できる。

第1に、金融機関が、1つの企業に対して、信用保証付き貸付と信用保証無しの貸付を同時に行っている場合がある。金融機関は貸付先企業のデフォルトによって損失を被る。この場合には、金融機関は、倒産する可能性の高い企業に対しては信用保証が付いていたとしても貸付を行わないであろうし、信用保証付きであっても貸付先の経営状態を頻繁にモニターするはずである。金融機関が地元の信用保証協会に対する評判を意識し、信用保証付き貸付先のデフォルトを少なくしようとする場合にも、同様のことが起こりうる。

表3は、金融環境実態調査に基づき、メインバンクからの借入額のうち信用保証が付いている割合別に企業の分布を調べたものである。サンプル企業の平均規模が大きいこともあるが、メインバンクからの借入額全額に信用保証が付いている企業の比率は10%に満たないことが分かる。

表3 メインバンクからの借入額に占める信用保証の比率別に見た企業の分布

第2に、1つの企業に対して、信用保証付き貸付を行う金融機関と信用保証無しの貸付を行う金融機関の両方が存在する場合がある。信用保証無しの貸付を行う金融機関は企業のデフォルトによって損失を被るため、貸付先の経営状態を真面目にモニターしようとするはずである。日本の中小企業は、他国に比して多くの取引銀行を持っている。従業員20人以下の小規模の企業でも、約3/4の企業で取引銀行数が2つ以上である(2003年版中小企業白書p145参照)。こうした状況下では、貸付に際して信用保証を求める金融機関と求めない金融機関の両方と取引する企業も多いと考えられる。

5 今後の検討課題

今回の分析により、特別保証には、一定のプラス効果があることが示された。もっとも、留意点や今後の検討課題が存在する。

まず、全体ではプラス効果が上回るものの、信用力の低い企業に限れば制度のプラス効果がマイナス効果を有意に上回らない点には注意する必要がある。モラルハザードや逆選択といったマイナス効果を小さくするための改善が望まれる。逆選択やモラルハザード抑制のためには、企業が収益性の高い事業を実施するように仕向けるのが1つのやり方だろう。この点で、今年4月から導入される信用リスクに見合った保証料率は、逆選択を抑制する効果を期待できる。一方で、担保や保証人については、4月からの制度変更に伴い第三者保証が原則不要になる。金融機関が借り手のモラルハザードを防ぐために担保・保証人を積極的に活用しているとする分析(Ono and Uesugi(2005))もあり、これら担保・保証人の持つ役割に配慮した制度設計が望まれる。

次に、1997年から2003年まで存続した企業における効率性の改善は示されているが、退出する企業を含めた分析がされていない点には留意する必要がある。例えば、「特別保証が、存続できないほどパフォーマンスの悪い企業を延命させた」という指摘を検証するには、退出企業についての分析も必要である。具体的には、デフォルト率が特別保証の利用によって有意に低下したか(そうであれば、延命効果はあったことになる)、特別保証を得て借入れを行った後にデフォルトした企業は、果たして退出するべき程パフォーマンスが悪かったのか(そうであれば、特別保証によって延命しても、その後は、パフォーマンスの悪い企業が退出するという意味で、自然な企業の淘汰が行われていたことになる)、という点を検証することとなる。我々の分析に用いたデータセットではデフォルトした企業数が十分ではないため、特別保証の実施によってデフォルト率が低下したかどうか確実なことは言えない。しかし、他の研究などから、特別保証を得た企業においても、質の低い企業が退出するという意味での企業の自然淘汰が起きていると推測することができる3

更に、特別保証の実施に伴い、多額の財政コストが生じている。もちろん全額が財政支出につながるわけではないが、2004年10月現在で2.1兆円の代位弁済が行われている。これについては、今回の特別保証利用企業における収益率改善という便益との比較を行うだけではなく、制度導入時に目的とされていた金融危機の回避に際して、特別保証がどの程度寄与したのかを、今後検証する必要がある。

6 おわりに

情報の非対称性の問題から資金調達に制約を受けることの多い中小企業金融に、政府がどのように関わっていくべきか。これについては、政府系金融機関の再編や信用保証制度改正が行われる現時点だけではなく、継続的な議論が必要である。今回の検証により、政府による信用保証を通じたリスクテイク機能に一定のプラスの評価を与えることができた。今後は、信用保証と、政府系金融機関による直接貸付との役割分担をどうするかを含め、これまでに得られていない実証的な知見を示していきたいと考えている。

2006年5月 『信用保険月報』5月号に掲載

脚注
  • 1 米国、英国、カナダにおける実証分析の例としては、Craig et al. (2005), Cowling and Mitchell (2003), Riding and Haines (2001)を参照。
  • 2 本稿の記述は、主にUesugi, Sakai, and Yamashiro (2006)に基づいている。
  • 3 Sakai, Uesugi, and Watanabe (2005)を参照。ここでは、CRD (Credit Risk Database)から構築された20万社以上の中小企業を6年間にわたって追跡した結果、信用保証利用企業を含む全体で、業績の悪い企業が良い企業から選別され、高い金利を払った上で退出しているという事実を見出している。
文献

2006年5月15日掲載