福田政権の経済財政政策の課題

鶴 光太郎
上席研究員

参院選の自民党大敗、安倍政権退陣などの政治空白を経て、10月に入り、福田新政権の経済財政政策がようやく動き出した。経済財政諮問会議では地域経済の立て直し、税と社会保障を中心に年内まで議論が続く。自民党内でも与謝野氏が中心となった財政改革研究会が始動し、同様に、社会保障の給付と負担の関係から、保険料、税のあり方について急ピッチで議論を進める予定になっている。

先送り断固ストップ

福田政権の大きな政策課題は、安倍政権におけるやや極端な「上げ潮戦略」=「幻想」の一掃(楽観的な名目成長率前提の見直し)と、弱者や格差などにも目配りをした「温もりのある改革」の実行である。

また、小泉政権の最後では「成長力強化と財政健全化は車の両輪」が原則であったが、安倍政権では、「成長なくして財政の健全化なし」と重点の置き方が変化した。歳出・歳入一体改革では、歳入面、つまり税の抜本的改革より歳出改革が強調された。財政健全化目標についても、2010年代半ばの債務残高GDP比率の安定的引き下げの長期目標より、11年度のプライマリーバランス(財政の基礎的収支)黒字化という中期目標を重視するという、まさに「片輪」で走るようなふわふわした不安定な経済運営が安倍政権の特徴であったといえる。

福田政権下では、もう一度地に足をつけていずれの観点も「両輪」で支えられた経済運営を行うことが求められている。

日本の社会保障制度については、その給付レベルという観点からみれば、極端な高福祉・高負担、低福祉・低負担の国とは違い、バランスがとれている。しかし、急速な少子高齢化が進むなかで、現状のまま維持することが可能でないことは明らかだ。給付をまかなう安定財源=消費税を確保し、将来世代への先送りを断固としてストップするという決意を政府・与党は明らかにすべきである。

所得再配分の強化も

一方、さまざまな名目で安易に消費税が引き上げられることも阻止しなければならない。そのためには、「新たな国民負担は官の肥大化には振り向けず、国民に還元する」という原則が徹底されるべきだ。また、年金記録漏れ問題に対処するためには、安易な後追い対策ではなく、国民が全幅の信頼を寄せ、将来に安心を持てるような社会保障負担の徴収体制の確立も大きな課題である。

こうした社会保障制度の維持可能性に向けた負担増に対して国民的な理解が得られたとしても、改革はそれで終わりとはならない。

なぜなら、消費税の負担増は低所得者ほど相対的に重くなるという逆進性があるからだ。課税最低限以下では給付も視野にいれた税額控除などを工夫することで、将来を担う若い世代、子育てファミリーの希望とやる気を高めるような所得再分配の強化が「温もりのある改革」につながる。

最後に、別個に設計されている社会保障制度と税制の整合性を図り、一体的に運営することによって財政の効率化を図る視点も重要だ。

児童手当、児童扶養手当、生活保護などの現行の社会保障給付、配偶者控除をはじめとする各種所得控除、最低賃金のあり方なども、「広く薄いバラマキ」から「必要な人に必要なサポート」を目標に掲げ、根本的・総合的に見直していくべきである。社会保障・税一体改革への取り組みは待ったなしである。

2007年10月25日付 フジ・サンケイ・ビジネスアイに掲載

2007年10月26日掲載

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