日本での敵対的買収防衛策:英「シティ・コード」の導入を

鶴 光太郎
上席研究員

国内企業が国内企業に仕掛ける敵対的買収が現実化する中で、敵対的買収予防策といえば、米国のポイズンピル型の防衛策(買収者が一定の株式を買い占めた場合、自動的に新株が発行され買収者の株式取得割合を低下させる仕組み)を指す場合が多い。

しかし、ポイズンピルの制度自体、米国の企業の過半が法令上の根拠にするものの、デラウェア州という1つの州の裁判所での判例の積み重ねでできてきたものである。そのため、企業誘致の視点から経営者寄りのルール作りがされてきたとの指摘もある。

その中でポイズンピルという制度が米国で有効に機能してきたとすれば、バランスをとるべく経営者の保身を許さないような強力な仕組みが存在していることを忘れてはならない。つまり、機関投資家などの「モノ言う株主」、経営判断の節目、節目において株主への説明責任を要求される経営者、株主利益を代表する独立的な社外取締役などの存在である。一方、日本に目を転じれば、いずれのインフラも整っているとは言いがたい状況である。

適用に厳格な条件

日本にとって移入が容易なのは、むしろ、英国の「シティ・コード」と呼ばれるTOB(株式公開買い付け)規制による買収防衛であろう。2004年に成立した欧州連合(EU)の統一的な企業買収指令も「シティ・コード」の枠組みを原則としている。また、マレーシア、シンガポールといったアジア諸国でもこうした制度が採用されており、米国のポイズンピル以上に「グローバル・スタンダード」といえる仕組みである。

「シティ・コード」では防衛策の導入は株主総会の承認を得ることを原則としており(「中立義務」と呼ばれ、平時に防衛策を導入していても有事の際の発動には株主総会の承認が必要)、取締役会で広く防衛策を導入できる米国に比べ、防衛策に対しては非常に厳格である。

「全部買付義務」

一方、部分的なTOBが原則として禁止されており、買収者が議決権の30%以上取得した場合は、残り全部の株式を(原則として現金で)買い付けなければならないとする、「全部買付義務」が定められている。こうした規制により、敵対的買収の中でも、株主や企業の利益を損なうことが明らかな、二段階買収(二段階目の買付条件を不利にすることで最初の買い付けに応じるよう株主に売り急ぎを強制する手法)や被買収企業に株を高値で買い戻させることを前提としたグリーン・メールなど、資金の裏付けのない買収を排除できる。

コロンビア大学法科大学院のミルハプト教授も「シティ・コード」の方が、ポイズンピルよりも単純で分りやすいルールであるので、日本への制度移入や実施も容易であると主張している。

また、「パネル」と呼ばれる自主機関が「全部買付義務」免除のケースなどを判断しており、司法ではなく公的機関が企業買収の是非を判断するという面でも、日本の伝統的な経済規制のアプローチとの共通点がみられる。

米国発の「グローバル・スタンダード」から日本への制度移入という固定観念に陥るのではなく、他の諸国の代替的な仕組みや制度のメリット、デメリットを丹念に検討することが重要なのは、敵対的買収防衛策の場合でも変わりないのである。

2005年9月12日付『フジサンケイビジネスアイ』に掲載

2005年10月4日掲載

この著者の記事