一大転換点迎えた05年金融行政

鶴 光太郎
上席研究員

2005年は日本の金融システムにとって大きな節目になりそうだ。大手行の不良債権比率半減目標が3月期末に達成できそうであるし、4月からペイオフ(預金などの払戻保証額を元本1000万円とその利息までとする措置)解禁が普通預金等にも拡大される。

これは、金融行政がこれまでの不良債権問題処理・金融システム安定至上主義から転換することを意味している。ペイオフ解禁拡大以後は、ペイオフを前提として預金者の自己責任や預金者による銀行選別(市場規律)が重視されることになる。こうした金融行政の節目に当たっては、「不良債権問題を完全に解決した上で、ペイオフ完全解禁を行う」というのが理想であったはずだ。

しかし、地域金融機関の不良債権問題処理は、地域金融機関の特殊性を強調する余り、大手行にくらべて遅れてしまった。また、ペイオフの完全解禁は実現されず、4月以降も「決済用預金」(無利子、要求払い、決裁サービスの提供を要件)に限り全額保護が継続する。

珍しい全額保護

金融危機が発生した際に、日本のように預金の全額保護が導入されることは珍しくないが、金融システムが安定化すれば、市場規律を弱め、銀行のモラルハザード(倫理の欠如)を誘発する全額保護は速やかに解除することが望ましい。かつて全額保護を導入した北欧諸国や韓国などは既に部分保護に移行しており、日本はOECDの中でペイオフ完全解禁を行っていない唯一の国になってしまった。

また、決済用預金の永続的な全額保護は、世界でもチリに例をみるぐらいで、国際標準からかなりかけ離れた政策と言わざるを得ない。

ただし、「決済用預金」の全額保護の影響は限定的かもしれない。金融機関や預金者が負担するさまざまな「決済用預金」の導入コストや将来の金利上昇を考慮すると、金融機関を選択できる預金者は金利がつかない「決済用預金」よりも安全な銀行の普通預金を選ぼうとするであろうし、優良な銀行であればあるほど「決済用預金」の導入には消極的であると思われるからだ。

決済用預金の金融機関別導入割合

「決済用預金」の導入に向けた各金融機関の取り組みをみても(図)、導入済みの割合は、信用金庫では比較的高いが、銀行ではまだ21%であり、取り組みにも温度差がみられる。「決済用預金」を選ぶ預金者は、当該地域において金融機関の選択の余地の少ない場合、また、マンションの管理組合や地方公共団体などのようにその公的な性格を反映して、安全性を第一に考え、預け先も固定化したいというニーズを持つ場合などに限定されると思われる。

健全な競争促進を

ペイオフ解禁拡大を契機に預金者が「決済用預金」という制度を頼まず、金融機関を選別することは、市場規律を高めることにつながるため望ましい。しかし、その際、優良な銀行のみならず、破綻し難いという意味で単に大きな銀行を選ぶ傾向も強くなってきている。バブル崩壊以降の十数年の間に銀行業の生じた最も大きな変化は、金融機関の破綻、合併・統合に伴う市場構造の寡占化である。

メガバンクも3グループに集約されることになり、信金・信組の数なども大幅に減少している。こうした状況で懸念されるのは、金融機関の寡占化、競争低下による利用者の利便性の低下である。例えば、合併による支店の統合も銀行側にとってはコスト削減に資するが、利用者側にとって不便になるのは明らかだ。また、寡占化の進行が、利用者にとって不利な金利、手数料の設定に繋がっていないか目を光らせることが重要だ。

緊急時から平時への対応に力点の移った2005年の金融行政は、昨年末に公表された「金融改革プログラム」に盛り込まれたコングロマリット化推進によって、金融機関を更に大きくしてその機能強化を図ることよりも、むしろ寡占化の弊害を認識し、国内での健全な競争促進に努めるべきである。

2005年1月3日 『フジサンケイビジネスアイ』に掲載

2005年1月14日掲載

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