「女子枠」を考える 難関大挑戦を引き出す効果も

中室 牧子
ファカルティフェロー

2026年度の大学入試で、理工系学部にいわゆる「女子枠」を設けた国公立大学は38大学に達した。この急速な拡大に対し、SNS上では「男子に対する逆差別だ」という批判が絶えない。擁護側は、女子が自らの進路選択に制約を抱えていることを指摘する。

この問題を考えるには、3つの問いに答える必要がある。第一に理工系学部への進学に男女差は存在するか。第二に何らかの政策対応が必要で、その余地はあるか。第三に、政策で対応するとして女子枠という手法は有効かということだ。

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男女差の存在は事実である(図参照)。諸外国と比較しても日本はとりわけ理工系学部進学者の女子比率が低い。重要なのはこの差が男女の学力差や選好の違いでは十分に説明できず、教師や親のステレオタイプ、ロールモデルの不足など意思決定のゆがみも原因と指摘されていることだ。

図:大学の各学部の女性割合

フランスで行われた大規模な実験では、女性研究者が高校で1時間話すだけで女子の理工系学部進学が統計的に有意に増えた。これは、政策による変化の余地があることを意味する。

では手段として、女子枠は有効なのか。ここで参照すべきは米国の大学入試におけるアファーマティブアクション(AA、積極的差別是正措置)に関する経済学研究の蓄積である。大半は黒人など特定人種に対する優遇措置を対象としたものだが、性別への優遇措置にも共通する論点がある。

AAの目的は受益者となる生徒を、より教育の質の高い大学に入学させ、格差是正を図ることだ。受益者は恵まれた教育環境で人的資本を蓄積でき、卒業後の就職や収入も改善する。これが「質の効果」だ。

他方、実力に見合わない難関大学に入学すると、授業についていけず留年や専攻の変更、退学に至るかもしれない。これは「ミスマッチの効果」だ。

AAで得をするかどうかは、この2つの効果のどちらが強いかで決まる。過去の研究は、質の効果が確かに存在する一方、ミスマッチの効果は必ずしも大きくはないと結論づけている。

ただ、このミスマッチについて、理工系学部への進学については結果が分かれている。複数の研究が、理工系学部ではAAのもたらすミスマッチによるマイナス効果は決して無視できないことを示す。数学など積み重ねがものをいう科目が必修で、初年度でつまずくと挽回が難しいからだ。

米国では23年の連邦最高裁判決が大学入試の人種に対するAAを違憲と判断した。理由の一つは「いつまでどの程度、人種を考慮すれば目的が達成されたことになるのか」が曖昧だったためだ。入学定員は固定されているため、ある志願者を人種ゆえに優遇することが、必ず別の志願者を人種ゆえに不利にする点も問題視された。

性別に関しては、教育改正法で公教育における性差別が禁じられており、公立大入試で女子枠に相当する制度は設けることはできない。このような事情もあり、米国のデータで性別のAAの因果効果を検証した有力な研究は見られない。

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性別のAAに関しては、インドとチリの制度を扱った2つの研究が女子枠の因果効果を明らかにしており、極めて示唆に富む。

インドのある州の工科大学では各カーストごとの枠が設けられ、さらにカースト内で3分の1を女子の合格者とする制度が導入された。約12万人の受験者のデータを用いて、この制度の帰結を調べた論文の発見は次の3点である。

第一に、この制度がなければ工学系大学に進学しなかった、社会的に不利なカーストの女子を大学に進学させる効果があった。第二に、より質の高い大学に進学する女子を増やした。

第三に、ミスマッチの効果はほとんど見られなかった。むしろ制度によって優遇を受ける女子ほど、大学1年次末の共通試験の成績は改善していた。また制度の対象となった女子は、電子通信工学など競争倍率の高い専攻を選択していた。

ただしこの研究は、制度のコストも明確に示している。5702人の男子と上位カーストの女子1053人が割を食った。進学できず、進学できた場合でもより教育の質の低い大学へ進学し、1年次末の共通試験の成績は低下していた。定員が決まっている以上、この制度の受益者の合格者が増えれば、その分だけ非受益者が不合格になる。

対照的なのがチリだ。24年度に導入された理工系の女子枠は、入学定員の一部を女子に割り当てるのではなく、通常の定員に上乗せする形をとった。まず一般入試で男女問わず成績順に定員を埋め、そこに届かなかった女子を、通常定員の20%を上限に追加合格させる。枠を設けるかどうか、どの学科で設けるかは、大学が個々に判断した。

この状況を利用した研究によれば、枠を設けた学科の女子比率(%)は2〜4ポイント上昇した。ただし枠を設けなかった学科では逆に低下しており、理工系全体では女子は増えていない。枠を作りさえすれば、自動的に女子の進学が増えるわけではないことが分かる。

他方、難関大学では一般入試で合格した女子の比率も約3ポイント上昇した。女子枠の創設が、これまで難関大を選択肢に入れていなかった女子の出願行動を変えた可能性がある。

女子枠は合格基準の緩和策としてより、出願行動を変えるシグナルとして機能したのかもしれない。日本の現在の厳格な定員管理の下では難しいが、チリのように既存の定員に枠を追加する制度は一考に値する。

各大学が女子枠を今後も維持するのであれば、どのような成果が達成されたときに制度を終えるのか、示すことも必要ではないか。日本の女子枠については質の効果とミスマッチの効果のどちらが強いのかについては明らかでない。入学後の成績や卒業まで追跡し、どのような効果があるのか厳密に検証すべきだ。

仮にミスマッチが懸念される状況があれば、それを最小限に抑えるための方策も必要になる。一般に学力が低い学生ほど、入学前の学力が入学後の成果に及ぼす影響を過小評価する傾向があることが、複数の研究で示されている。

例えば、大学が入学前学力の水準ごとに4年で卒業する確率がどれだけ違うかを志願者に開示すれば、生徒が誤った期待の下で出願することを避けられるかもしれない。開示は、準備の足りない志願者を思いとどまらせるだけではない。自らの適性を過小評価している女子にとっては、挑戦する材料にもなる。

日本の女子生徒の理数系の学力は男子に劣らない。だとすれば、理工系を志望する女子を増やす取り組みは、入試の内と外を問わず続けていく必要がある。

なお大学入試における格差は性別によるものだけではない。英国のイングランドでは志願者の成績を経済状況や出身校の環境とあわせて評価する文脈考慮型入試が導入されている。日本でも性別以外の不利をどう扱うかは、女子枠と別に議論されるべき論点である。

2026年9月21日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2026年10月1日掲載

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