人生100年、義務教育の延長を

中島 厚志
理事長

「人生100年時代」という表現が定着してきた。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が提唱したもので、2007年に日本で生まれた子どもの半分は107歳以上生きるとも予測している。

この予測も受けて、政府は「人生100年時代」の制度設計を進めている。高齢者から若者まで全ての人が元気に活躍し続けられる社会をつくる必要があるとして、教育無償化、大学改革、リカレント教育や高齢者雇用促進などの「人づくり革命」が推進されている。

今の「人生80年時代」が100年になれば、学び直しなど一段と多様な人生設計が必要となろう。60歳以降の就業が普通になれば、「教育→仕事→引退」に納まらない人生サイクルが増えることも想像に難くない。

年金や雇用、教育なども「人生100年時代」にふさわしい形に変わらなければならない。60歳の年金支給開始年齢は平均寿命が65歳から70歳くらいのときに決められたものだ。寿命と働く期間が延びるようなら、年金の支給開始が70歳以上からとなってもおかしくない。

同じことが教育制度にもいえる。現在の9年間の義務教育年限は1947年に定められたが、そのときの平均寿命は60歳に満たない。戦後すぐと今の日本人の平均寿命を比べるのは不適切かもしれないが、これからの人工知能(AI)社会を展望すると、今後、教育の持つ意味はさらに重くなるだろう。仕事などに必要とされる知識やスキルに一段と広がりと深みが求められるようになるからだ。

世界的に平均就学年数と1人当たり国民所得には相関関係がある。就学年数が延びると、所得がその伸び以上に大きく増える関係にある。日本の現在の平均就学年数12.8年が1年延びれば、1人当たり国民所得は平均的に3割ほど増える計算になる。また、わずかだが、就学年数が長くなると所得格差が縮小する傾向もうかがえる。

「人生100年時代」を迎え、戦後一貫してきた義務教育年限も増やすべきではないか。人々や社会のニーズは多様で、義務教育化で教育が画一的になってはいけないが、学びの期間の延長は前向きに考えたほうがよい。大学院への進学も当たり前にという国にすべきだろう。そうでないと、世界との競争に負け、「人生100年時代」への備えもできない。

2019年1月23日 日本経済新聞「私見卓見」に掲載

2019年2月4日掲載