東京オリンピックと消費税率引き上げが貢献する2020年の日本経済
~期待される東京オリンピック関連イベントとキャッシュレス決済機器導入の経済効果~

中島 厚志
理事長

足元の日本経済は好調とは言えない。低調な世界経済や米中貿易摩擦などを映じて、外需は落ち込んでおり、企業収益も伸び悩んでいる。少子高齢化もあって人手不足は深刻化しているものの、賃金への波及は鈍く、賃金増が消費を大きく押し上げるには至っていない。

この分では、2020年の日本経済も緩やかな成長に止まろう。確かに、米中貿易交渉が合意方向にあることやITサイクルも底入れしつつあることは、日本の輸出や経済成長を支えることになる。しかし、消費税率上昇をカバーする賃金増がなければ、せっかくのポイント還元などの消費税率引き上げ対策も息切れしかねない。また、世界的な需給回復や不安定な中東情勢で原油価格がジリ高となっていることも、エネルギーの多くを輸入依存している日本経済にとってはマイナスである。

ただし、2020年の日本経済にとってはいくつか追加的なプラス材料がある。その1つが東京オリンピックである。東京都の試算では、大会招致が決まった2013年から大会10年後の2030年までの経済効果は、直接的効果が約5.2兆円、大会後のレガシー効果が約27.1兆円で合計約32.3兆円としている(注1)。

ちなみに、1964年に開催された東京オリンピックでは、巨額の投資がなされ、さらに白黒テレビなどの急激な普及とその一巡もあってオリンピック前には大きく景気を押し上げたものの、オリンピック後には大きな不況を経験することになった。

2020年東京オリンピックも、前回の1964年東京オリンピック時のように、前後の景気押し上げ・押し下げが生じることになる。しかし、過去30年余りのオリンピック開催国の経済状況を見ると、いずれの国でも開催前の景気上振れと開催後の景気下振れが生じているが、開催国の経済規模や成熟度でその度合は異なっている(図表1)。特に、経済規模が大きい国々、あるいは経済が十分成熟している国々では景気変動幅は小さくなっており、2020年東京オリンピックが開催される日本もこれに該当する。オリンピック投資がすでに複数年行われてきたことも勘案すると、オリンピック後の景気落ち込みは小さいものの、大会開催に伴う直接的な経済効果は2020年プラス0.1%~0.2%程度しか日本経済に効かないと見られる。

図表1:【オリンピック開催国:オリンピック前後の景気の推移】
図表1:【オリンピック開催国:オリンピック前後の景気の推移】
(注)縦軸はGDPギャップ。1984年以降のオリンピック開催国を抽出。経済規模は、米国、中国、イギリスを大きい国とし、スペイン、オーストラリア、韓国、ギリシャ、ブラジルを小さい国と分類
(出所)米国商務省経済分析局(BEA)、韓国銀行、Oxford Economics、オーストラリア統計局、イギリス国家統計局(ONS)、IMF

むしろ、大きく注目されるのは、オリンピック開催の機会をとらえて行われる「東京2020 NIPPONフェスティバル」といった関連イベントである。2012年のロンドンオリンピックでは、「英国政府観光庁が、文化、遺産、スポーツ、音楽、田園地帯、ショッピング、飲食の7つをテーマに据えた大規模キャンペーンを(オリンピックとあわせて)展開し、自国文化や地方観光資源を幅広くアピールした」(注2)。それが、「ロンドン2012フェスティバル」であり、音楽、ダンス、演劇からサーカスやファッションショーに至るまで多種多様な芸術イベントが最大規模で行われた。オリンピック前後(2012年7月-9月)だけを採っても、合計2,020万人以上が参加した33,631件もの有料無料のイベントがロンドンばかりか英国全土で繰り広げられ、スポーツだけではなく文化芸術面でも内外からさらに多くの人々を集め、英国経済の活性化と英国を世界に発信することに貢献した(注3)。

来る東京オリンピックにおいても、多様なイベントが同時に開催されることで訪日観光客が増加し、滞在日数、消費額も増えることになる。それは、東京オリンピックの経済効果を増大させるのみならず日本を世界に発信することにも大きな効果を発揮するわけで、「東京2020 NIPPONフェスティバル」の直接関連イベントに止まらず、全国でオリンピックとフェスティバルに合わせた種々の催し物が多数開催されることを期待したい。

2020年の日本経済を盛り上げるもう1つの材料が消費税率引き上げである。もちろん、消費税率引き上げ自体は消費を下押しする。しかし、消費税率引き上げに伴う経済対策もさることながら、軽減税率やポイント還元策の導入などに対応すべく多くの事業所が投資した点が注目される。その効果は日本の知財投資の増加に見て取れる(図表2)。

図表2:【主要国:知財投資増減率の推移】
図表2:【主要国:知財投資増減率の推移】
(注)前年同期比
(出所)Eurostat、内閣府、米BEA

図表2に見られるように、日本の知財投資の増加率は主要他国に劣後しており、知財の内容がソフトウェアや特許などであるだけに、AIなどのイノベーションを軸とする第四次産業革命への日本企業の取り組みの遅れが懸念される。ただし、最近の伸びは目覚ましく、この1つの要因としてキャッシュレス決済と消費税率多様化への対応のための機器とアプリ導入が想定される。

これら機器やアプリの導入は、消費税率多様化とポイント還元策への対応が一義であっても、企業の資本装備率を高め、導入企業の生産性やサービスの向上など収益力と競争力強化にも結び付く契機となりうる。また、キャッシュレス決済への対応が進むことで、今後のキャッシュレス社会への展開可能性と、膨大な消費データを活かした新たなイノベーションへの対応力も高めることになる(注4)。これらの観点を踏まえると、キャッシュレス対応機器の導入促進が日本の経済社会にもたらす影響に注目し、2020年以降の日本の経済・企業の世界へのキャッチアップに期待したい。

脚注
  1. ^ 東京都オリンピック・パラリンピック準備局、「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」p.3、2017.4
  2. ^ 日本銀行調査統計局、「2020年東京オリンピックの経済効果」、BOJ Reports & Research Papers、(2015.12)p.15
  3. ^ Garcia et al.、"London 2012 Cultural Olympiad Evaluation"、Institute of Cultural Capital、2013.4。なお、イベント総数は117,717件で参加者総数は4,143万人
  4. ^ 経済産業省「キャッシュレスビジョン」(2018.4)では、キャッシュレス化の進展により店舗などの無人化・省力化が進み、現金の取扱いに伴う約 1〜8 兆円のコストの削減が見込めるとの試算が紹介されている。

2020年1月20日掲載

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