賃金上昇は失われた20年脱却のバロメーター
~日本の賃金は労働需給から見て正常ではない~
中島 厚志
理事長
日本の景気は緩やかに回復している。在庫増が主因であったとはいえ、今年第1四半期の実質経済成長率は前期比年率2.4%の堅調な成長となり、個人消費に加えて設備投資も伸びが戻ってきた。
緩やかながら名目賃金も上昇しており、それには景気回復や企業業績の大幅改善にくわえて失業率低下と雇用改善も寄与している。しかし、失業率が、労働需給が均衡する水準まで下がっていると計算されるにもかかわらず、賃金上昇が確としたものとなっているようには見えない。
しかも、実質賃金では、労働需給引き締まりと実質賃金下落の相関すら窺える。いくらこの1年間物価に消費税引き上げ分が反映されて実質賃金の伸びが物価上昇率に追いつきにくくなっているとしても、経済学の見方に照らしてもこの状況を正常とは言えない。
アメリカでも、近年失業率は大幅に低下したが、賃金上昇の加速を招くところまでは至っていない。しかし、それでも労働需給の改善と賃金上昇との間には明確な相関が見て取れ、あと少々の労働需給改善で賃金上昇が加速する段階にたどりつくようにも見える。
実は、日本の労働需給と賃金との間にも90年頃まではアメリカのような関係があった。しかし、失われた20年を経て、その関係は不鮮明になっている。企業業績は好調であり、労働需給ひっ迫に応じた名目賃金と実質賃金の上昇が見られるかが経済活性化の大きなバロメーターとなる。
労働需給ひっ迫でも上昇が鈍い名目賃金
日本の景気回復に伴い、失業率は改善しており、緩やかながら名目賃金は上昇している(図表1)。ところが、消費税引き上げの影響で上昇率が高まった消費者物価分を控除した実質賃金は、この3月で23カ月連続前年同月割れとなった。

2015年5月28日 WEDGE Infinityに掲載
2015年6月5日掲載
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