早すぎたユーロ通貨統合 南欧諸国で長期的に続く経済苦境
~ECB金融緩和策が示すユーロ圏経済の厳しい現実~

中島 厚志
理事長

6月5日、ユーロ圏経済の低迷とデフレ懸念に対応するため、ECBはマイナス金利を含む金融緩和策を発表した。しかし、景気好調なドイツなどの国々と、デフレ、マイナス成長が続く南欧諸国などの国々に二極化しているユーロ圏経済で、一律の金融政策がすべての域内国に望ましい効果を挙げるのは難しい。

そもそもユーロ圏経済の二極化は、単一通貨のユーロ圏形成にあたって期待された域内経済の収斂に適っていない。経済成長率は言うに及ばず、財政収支や1人当たり所得など収斂していない経済指標は数多い。

ECBの金融緩和策は、通貨統合後のユーロ圏経済の現実と今後長期にわたって続く南欧諸国経済の苦境を改めて浮かび上がらせている。

収斂しない経済指標

ユーロ圏域内国経済が互いに収斂していない状況は、まずユーロ圏参加に当たって求められる経済収斂基準(図表1)から窺える。そこでは、物価、財政収支、為替相場、金利水準の収斂が求められている。

物価基準では、そのまま受け取ればドイツの消費者物価上昇率がデフレのギリシャ、キプロスなどの平均よりも1.5%以上高くなり、ユーロ圏中核国のドイツがユーロ圏への参加資格を満たしていないことになる。

実際には、欧州委員会は物価基準に例外規定を設けており、デフレに陥っている債務危機国は基準国にならないとしている。そのため、ドイツは基準外とはならない。

図表1:経済収斂基準のポイント
  1. 消費者物価:
    1年間の平均消費者物価上昇率が、消費者物価上昇率の最も低い3カ国の平均値を1.5%以上上回らないこと。
  2. 財政赤字:
    会計年度末に財政赤字GDP比3%以下、債務残高GDP比60%以下であること。
  3. 為替:
    過去2年間通貨切り下げを行わずに、中心地から±15%以内の変動幅に収まること。
  4. 長期金利:
    過去1年間、長期金利(10年物国債利回り)が消費者物価上昇率の最も低い3カ国の平均値を2%より多く上回らないこと。
(出所)「欧州連合の機能に関する条約」
全文は「WEDGE Infinity」にて。

2014年7月1日 WEDGE Infinityに掲載

2014年7月8日掲載