欧州債務危機はいまのやり方で改善される
~踏まえねばならないEUの視点~

中島 厚志
理事長

2011年4月にみずほ総合研究所から独立行政法人経済産業研究所(RIETI)に移り、このコラムをお休みさせてもらったが、このたびウェッジのご厚意で再開することとなった。RIETIでは経済産業政策につながる多くの調査研究が行われており、足元の経済動向を読み解くに有用なものも多い。これらは折々ご紹介していきたいが、再開第1回目の今回は、昨年後半以来世界経済と金融市場の大きな下押し要因となってきた欧州債務危機について見てみたい。

足元の欧州債務危機が深刻な根本原因は、本来共通の通貨を持つほどには経済が一体化していないのに、通貨統合をしてしまったことにある。それにもかかわらず、事態深刻化後のEUの対応が抜本策に欠け、欧州主要国間の対応の足並みすら揃っていないように見えることも、危機収束を遅らせている原因との見方がなされている。

確かに、経済状態や金融財政政策のスタンスが国によって大きく違うのに、財政統合もできないまま通貨や中央銀行を1つにしたことは、今から見れば明らかに性急かつ強引にすぎた。

しかし、足元のEU諸国の動きまでも、対応があまりに不十分で後手に回っていると理解するばかりでは、動きを見誤る。欧州債務危機は深刻だし、その根本的な解決は容易には描けないが、EUでは危機を抑え込むに十分値する対応が採られており、厳しい状況が続きつつもユーロ安やギリシャ、イタリアなどの国債の利回り上昇に歯止めがかかっている事実を軽視してはならない。

さらに、通貨統合と欧州中央銀行(ECB)創設を決めたマーストリヒト条約の背景にある考え方が、今に至るもEU諸国に浸透しつづけていることも見落としてはならない。事態は危機的であり、綱渡り的な状況が今後も続くとしても、EUの動きを市場の視点だけではなくEUの視点からも見ていくことが、正確な事態把握につながる。

全文は「WEDGE Infinity」にて。

2012年1月31日 WEDGE Infinityに掲載

2012年2月7日掲載