「独立国」とも思えない

DORE, Ronald
RIETI客員研究員

美浜原発の死亡事故は普通の発電所でも起こりうる事件だが、一般市民の原子力や核に対する「核フォビア(拒絶感)」に拍車をかければ、悲劇だと思う。原子力が地球温暖化対策として大事な役割を果たせるばかりではない。来年更新されなければならない核不拡散条約をめぐる交渉で日本が冷静な対処が必要だからである。

基本的な問題は、核拡散を防止する方法として、米国が一方的に軍事力で支配する体制によるか、国際原子力機関(IAEA)を中心にして、米国の覇権に極力抵抗する国も参加できるような、合議制を原理とする体制によるかである。

現在不拡散の原理に挑戦して、ブッシュ政権にたまらない焦燥感を抱かせているのは北朝鮮とイランである。それなのに、なぜ最近「静観」一点張りなのかといえば、イランの場合、隣のイラクで手を焼いているためで、北朝鮮の場合、いまだ米軍の在韓本部をソウルから移転し終わっていないし、6カ国協議が無策状態をカバーしている。しかし、先週発表された米軍のF15戦闘機の韓国配置が示唆するように、両国の核施設を爆撃して破壊する選択肢を米国は決して排除していない。イランの場合は、20年前に同じようにイラクの核施設を破壊したイスラエルにやってもらうだろうというのはワシントンでのもっぱらの説だが。

イラクで懲りて、やはり国際協力の有用性を再確認した米「開明派」の人たちは、米国が支配権などを諦めても、少なくとも主導権を握れるような「疑似合議体制」を理想としている。その1人が、ブッシュ政権の最近の動きはいかにしていちずにその逆の方向に暴走しているかを最近ヘラルド・トリビューン紙で糾弾している。

筆者は民主党系でもない。レーガン時代の国防次官補だったローレンス・コーブである。ブッシュ政権の甚だしい誤謬として次の点を羅列している。

1.IAEAが、厳重な国際点検制度の下で、核兵器の材料となるプルトニウムおよび濃縮ウランの製造をごく少数の国に限定することを提案している。とこらが、米国は、他国はどうあろうが、自国の国内検査は許さないと宣告して、その提案を実質的に破壊した。

1.核不拡散条約で核保有国が核廃止を目指すことを約束しているのに、米国が「ミニ核」および「地下貫通核」の2種類の新開発を発表して核開発の予算を10年前の2倍にした。

1.そのような新兵器開発のため、長年懸案の包括的核実験禁止条約の批准を否定した。

1.すでに2001年の「核兵器施政綱領」で核による先制攻撃を辞さないことを明らかにした。

1.米国は「核不拡散条約からの脱退は許されない」と主張しながら、自身はロシアとの「弾道弾迎撃ミサイル制限条約」を破棄して、ミサイル防衛計画を大量の予算をつけて推進している。それは「防衛」の名において、米国が先制核攻撃を無事に行使する能力を確保するためでしかない。そう非難しているロシアと中国は間違っていない――と。

小泉政権が来年の予算で、ミサイル防衛開発のための大量の支出を計画して協力しようとしている相手は、こういう姿勢をとっている米国である。

核不拡散条約の交渉でホンモノの国際体制を作るのに、2つの非核保有経済大国、ドイツと日本の役割が大きいはずだが、米国に全く癒着した日本の発言は独立国の発言と誰も思わない。

2004年8月22日 東京新聞「時代を読む」に掲載

2004年9月6日掲載

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