変わらない米外交政策

CURTIS, Gerald
RIETIファカルティフェロー

もし、ブッシュ米大統領が大統領選で負ければ、外交政策がどう変わるか、多くの憶測がある。経済政策や右寄りの社会政策は変わるに違いないが、外交政策に大きな変化が現れるとは考えにくい。外交の分析に希望的観測をはさまないのは重要である。

どの政権も前政権とは異なった政策を約束して就任する。その後、しばらくして、前任者が去った地点に戻る。ビル・クリントンは天安門事件に言及した際、北京の虐殺者を甘やかしたと父ブッシュを厳しく批判し、対中貿易政策は、人権面での動向次第と警告した。彼がホワイトハウスを去るころには一転して、対中関係は良好で、戦略的パートナーシップにまで進化する、と主張した。

息子ブッシュが大統領に就任した際、対中政策はパートナーというより、戦略的競争相手という前提に立つと言った。それから3年後の今、クリントンと同様、中国に熱心である。対中関係を重視し、台湾の独立運動を厳しくけん制している。

ブッシュは東アジア政策で、日本との戦略的対話の重要性を強調、中国より日本の知識や人脈を持つ人たちをアジア担当の重要ポジションに任命した。このシフトは当然日本で歓迎された。このあいだ、外務省の友人は「ブッシュ政権は外圧を使わないように腐心している」と評価した上、「経済運営に関し、終始、日本に"講義"して、箸の上げ下ろしまで教えようとしていたクリントン政権とはなんという違いか」と言った。

しかし、クリントン政権のジャパン・パッシング(飛ばし)は行き過ぎと民主党内にも反省があった。ブッシュの対日アプローチの青写真「アーミテージ・リポート」は実は共和、民主両党の人たちを含むグループによって書かれた。民主党がホワイトハウスを勝ち取ったとしても、このリポートが対日政策の基本として採用される可能性は大いにある。

誰が大統領になっても政策は変わらないと言っているのではない。もし前回、ゴアが勝っていれば、イラクへの先制攻撃はなかっただろうし、ブッシュのようにごう慢、そして一国主義者には映らず、反米感情がこれほど広がらなかったと思いたい。しかし、これは主にスタイルの問題である。政権が代わっても国益は変わらないので、外交の基本は大きくブレない、と歴史は示しており、これからもそうだろうと思う。

民主党は低賃金の中国や他の国との競争から米国の労働者を守る必要があると、声を上げている。しかし、民主党候補が大統領になれば、国益は保護主義ではなく、自由貿易にあるという現実に直面し、通商政策が大きく変わるはずはない。

同じことは安全保障政策について言える。民主党はブッシュのイラク戦争の決断を批判しているが、一般論として先制攻撃の必要性を強調する幹部は多い。民主党の大統領候補が確実のケリーは安全保障に関して、ブッシュの主張とどこが違うか、よく見えない。

例えば、「大統領として、われわれの安全をどの国、どの機関にも譲り渡すことはない。必要ならば、武力を行使する私の決意に揺るぎはない」。これはケリーの最近の演説である。要するに、同盟国と相談し、あるいは国連で検討した上で、武力行使も含めて行動を決めるのではなく、ブッシュ同様に自分で決めると声高に言っている。

これは9.11テロがいかに米国を変えたかを意味し、友好国や同盟国の指導者にとって困難な挑戦を突き付けている。というのは、自国民に米国の言いなりになっていないと納得させながら、その一方で米国の安全に重要と思われる政策に協力していると米国に見せる必要がある。この難しい現実は誰が次期大統領に当選しても変わらない。この流れの中で、日本は自分の国益を追求する最善の方法を探る必要がある。

2004年3月7日 東京新聞「時代を読む」に掲載

2004年3月25日掲載

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