転換期の東アジア政策

CURTIS, Gerald
RIETIファカルティフェロー

米国の東アジア外交の方針は、「(車輪の中心の)ハブと(そこから伸びる)スポークの関係」に基づいていた。ハブにあたる米国は、日本や韓国、フィリピンなどとの2国間同盟や協定を通じて、この地域に力を投射していた。この枠組みはだいぶ時代遅れになり、見直しや修正が必要だ。

ハブとスポーク構想は、2つの前提に根差していた。ひとつは、米国は、ソ連や共産中国を封じ込めるため、東アジアに同盟関係が必要だった。2つ目は、西ヨーロッパと違って、東アジアの「反共」の国々に連帯感が乏しかった。それゆえ、多国的なアプローチは取れず、一国一国との「スポーク」を作ったのだ。

ところが、今事情が違う。それは、冷戦時代が終わっただけではない。これと同様に重要なことは、東アジアに一種の地域主義が興隆したことだ。この地域を構成する諸国のほとんどすべてにとって、米国との関係は重要だが、米国は生来のメンバーではない、という見方は強い。こうした新しい現実に、米国はどう対応するのか。そのための新しい戦略が必要だ。

地域主義を促進している主因は中国の躍進だ。ほんの数年前まで、日本やアジアのビジネスマンは中国の経済躍進を懐疑的または不吉なものとみていた。成長が持続可能か、また、中国の競争力は日本の製造業を空洞化させ、韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)から市場を奪うと懸念していた。

今日、状況はどうか。米国に代わり、中国は日本や韓国の最高の輸出市場となり、ビジネスマンや政府の指導者は、中国との経済関係を一種のゼロサム、つまり中国が成功すれば、ほかの国が衰退するという見方から、かなりの速さで変わりつつある。その代わり、中国との経済関係は「共に勝者となるゲーム」に変えることができる、という見方に明確にシフトした。これを実現するのは容易ではないが、このゲームをやろうという欲求が、他の東アジアの国々と同様に、日本の政策を中国に向かわせていることが重要だ。

米国の対東アジア地域戦略は新しい2つの前提に立つべきだ。ひとつは、東アジア地域主義は、西欧の地域主義と同様に、米国の国益と共存できる、ということ。すべての東アジア諸国はこの地域で、引き続き政治的、経済的な米国の存在を望んでいる。安全保障面でもしかり。日本にとって、米国との同盟は成長する中国パワーと均衡を保つために不可欠だ。中国にとっても、中国封じ込めが日米同盟の狙いという懸念は、米国が提供している抑止力を日本が自ら備えようとするよりも、日米同盟の方が望ましいという認識によって相殺されている。

米戦略の2つ目の前提は、2カ国間の同盟関係を保ちつつも、ハブとスポークの構想を過去のものとして、東アジア諸国との安保対話は多国間化する方が望ましいということだ。北朝鮮との6カ国協議は有益なモデルを提供するかもしれない。ブッシュ政権が6カ国協議を採用したのは、この協議の方が成功する見込みがあると考えたからではなく、ただ北朝鮮と直接交渉したくなかったからだ。ところが、このアプローチが意外に有益であると証明された。ほかの地域安保問題に、6カ国協議方式を活用できるよう、一種の地域安保フォーラムのように機構化することを狙うべきである。

世界をもっと安全にし、繁栄させようとするならば、新年に当たり、テロの脅威に対処するのと同じぐらい、触れなければならない重要な外交問題がある。ブッシュ政権が、東アジア地域主義の興隆を含め、極めて重要な政治的、経済的展開に対応できる戦略を編み出すために、テロとの戦いを超えて、より広い視野で外交政策を考えないといけない。ブッシュ大統領の外交に対しては、期待より懸念が強いが、年の初めは人間は楽観的であるべきだ。今年、世界はもっと平和になるという希望をもって、この新年最初のコラムを締めたい。

2004年1月11日 東京新聞「時代を読む」に掲載

2004年1月20日掲載

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