ブッシュ米大統領と韓国の盧武鉉大統領、続くブッシュ大統領と小泉首相の一連の首脳会談は、北朝鮮の核問題への対応で、日米韓の結束を強めたようにみえる。この過程で、次の段階となる今週末、東京で行われる小泉首相と盧大統領の首脳会談は重要な意味を持つ。
ところが、日米韓が北朝鮮の問題で、ある程度、足並みがそろったものの、3カ国の具体的な政策や戦略はまだ不明確だ。確かに、北朝鮮に「核保有国となる目標を絶対に許さない」と強いメッセージを送った。また、いまのままのコースを進むなら、米韓共同コミュニケでいえば「追加的行動」、日米共同コミュニケのより厳しい言葉で「一段と強硬な措置」を取ると警告した。同時に日米韓のリーダーたちは「平和的な解決」を追求すると合意した。
しかし、北の核問題で平和解決を追求するというのは一種の希望表明であり、政策ではない。平和解決のための具体的な戦略があって初めて政策があるといえるが、その戦略はどうあるべきか、日米韓のそれぞれの考え方はまだはっきりしない。
ブッシュ政権では依然として穏健派と強硬派の対立は続いている。北朝鮮に対して核兵器開発を断念するまで、圧力だけをかけ続けるべきか、それともより包括的なアプローチ、つまり要求に応じた場合の報奨と応じない場合の制裁を含む平和解決へのロードマップ(道筋)があってしかるべきではないか、という意見の相違がある。この基本的な問題が解決されない限り、「平和解決」というのは単なるスローガンにすぎない。
盧大統領率いる新政権は北朝鮮政策だけでなく、国内問題も含め、すべての政策が流動的なようである。この一週間、ソウルでいろいろな人の話を聞いてその印象をすごく受けた。まだ就任して3カ月の大統領なので結論を出すのは早すぎるが、盧大統領は選挙中に発言したことと矛盾しても、必要と思えば、政策を変えるというプラグマティズムの性格を持つ、韓国にとって新しいタイプのリーダーである。
前政権の太陽政策に代わる新しい政策作りに苦闘しているのは明らかだ。韓国は「金正日へのサンタクロース」といった一方的な譲歩をやめて、これから「互恵に基づいた政策」に変えていくと盧政権が決断したと、ある信頼できる情報筋が私に強調したように、この政権は金大中前政権とかなり異なる政策を追求するつもりである。問題はこの政権が米韓の同盟関係の必要性を痛感するあまり、日米韓が取るべき北朝鮮対策について、ブッシュ政権の中からの批判を恐れ、はっきりと意見を言っていないことである。
北朝鮮の脅威と拉致問題での怒り、小泉首相にとってのブッシュ大統領と緊密関係の重要性からして、日本政府はますます強硬路線に傾いているようにみえる。少なくとも、先月行われた日米首脳会談では、米国の強硬派が望む政策にブレーキをかけるような発言は一切なかった。北朝鮮問題において、もしも小泉政権が独自の考え方を持っているというなら、それは今のところまったく見えていないと言わざるを得ない。
北朝鮮の核開発をやめさせる平和的な解決は可能かどうか不明である。しかし、平和解決のための交渉に米国がもっと積極的に取り組み、圧力をかけながらも、核カードを捨てれば北朝鮮にとって大きな、また具体的なプラスになるのだと、そのロードマップを示さない限り、平和的解決のチャンスをつかむことはできない。今週の訪日に際し、盧大統領はそうしたメッセージを持ってくるべきだし、また米国の同盟国である日韓の首相と大統領がそろって、そのメッセージをブッシュ政権に強く伝えるべきである。
2003年6月1日 東京新聞「時代を読む」に掲載