社会保障・経済の再生に向けて

第13回「成長戦略(1) - 外国人材の積極活用に向けて『特定地域』選定を」

小黒 一正 コンサルティングフェロー

共著:関山 健 (東京財団・研究員)

少子高齢化の進展に伴い、日本の国際競争力や潜在的成長力は急速に低下しつつある。いまや、社会保障再生と並び、経済再生は喫緊の課題となりつつある。特に、日本全体を覆う閉塞感を打破可能な、将来に希望のもてる成長戦略の策定が最も重要だ。また、政権交代が実現した今、新政権の力量は未知数であるものの、その期待感も高く、これまで実現が困難であった政策を推し進める絶好の機会となる可能性が高い。そうした政策構想力の強化のため、第12回のコラムでは、その強化に向けた1つの試みとして、シンクタンク増強の重要性を述べた。

ところで、経済が成長するといことを生産面から見れば、土地、労働力、資本という生産要素の効率的利用が拡大するということである。しかしながら、今後迎える少子高齢化・人口減少の影響として、まず労働力人口が減少すれば労働投入量が減少することになる。国立社会保障・人口問題研究所による推計では、2050年の労働力人口は現在の6650万人から4228万人へと3割以上減少することが予測されている。

さらに、高齢化によって退職世代が増加すると、貯蓄を行う年齢層に比べ、取り崩す年齢層が社会のなかで増加することになる。これは、貯蓄の減少すなわち投資に回る資金の減少を意味する。日本では、今まだ老後の不安から現役世代が貯蓄を積み増す傾向が見られるが、退職世代の増加に伴い、この流れが反転することが危惧される。

このように、今後の少子高齢化・人口減少社会は、労働力人口と投資の減少を通じて経済成長にマイナスの影響を与えてしまうのだ。こういう話をすると、「経済全体が成長しなくたって、質の高い暮らしを目指せばいいじゃないか」と思う向きもあるだろう。確かに、人口が減少するのであるから、1人当たりGDPは向上してもおかしくない。しかし、2055年には1.3人の現役世代(15~64歳)で1人の高齢者(65歳~)を支えなければならず、そのための社会保障関連費が国民生活を大きく圧迫することが予想される。その場合、このまま経済全体が低迷すれば、1人1人の生活も苦しくならざるを得ない可能性もある。

少子高齢化・人口減社会において、成長を確保していくためには、限られた土地、労働力、資本という生産要素を最大限効率的に活用していくしかない。このような問題意識を踏まえ、今回のコラムから、経済再生に向けた考察を進めていきたい。成長戦略として期待できる有望分野としては、外国人材の活用、教育、医療・介護、育児・雇用、農業、環境・都市、観光、金融などのテーマが想定できる。そこで、これらテーマを、数回にわたって取り上げていく。このうち今回は、外国人材の活用を考察したい。

外国人材の積極的活用は「特定地域」から

外国人材の積極活用は、単に労働投入量の増加のみならず、国内の設備投資増加や他の波及効果も通じて、成長の起爆剤になることが期待されうる。

今年8月のコラム「縮む日本経済、反転にむけて積極的な外国人材活用の検討も進めよ」において、筆者は「外国人材の受入れ拡充は、財政・社会保障負担の軽減を通じて、各世代の効用を改善する可能性が高いこと」を述べたが、未熟練の外国人材と低所得層との競合や、治安の悪化を懸念する識者も多い。この懸念は感覚的に理解できる。

だが、外国人材の受入れ拡充は、無理に全国一律に進める必然性はない。むしろ、まずは1つの特定地域を選定し、シンガポール等の外国人材活用策を参考に、外国人材受入れの拡充を図っていく方式を採用するのが現実的と考えられる。また、特定地域で受け入れた外国人材の域外移動を的確かつ効率的に管理するには、四国や佐渡島のように、海に囲まれた地域を選定する方法がある。また、このような地域選定が困難なときは、シンガポールのように未熟練の外国人労働者には政府の指定する区域に居住を義務付ける方法もある。いずれにせよ、その場合、外国人材受入れの摩擦を集約でき、他の地域におよぼす影響はおおむね遮断できよう。しかも、その地域が一定の土地面積をもち、さまざまな生産拠点などの整備が可能ならば、いくつかのメリットも期待できる。

まず第1は、日本企業の「国内回帰」促進である。90年代はじめ、日本企業は生産拠点の海外移転を急激に進展させたが、移転先の労働コスト上昇に伴い、その再配置を進めるとともに、一部は国内回帰しつつある。また、企業活動のグローバル化が進む中で、各国の当局が自国法で海外企業を裁くケースも増えてきている。このため、日本企業が巨額の制裁金を科され、事業撤退を迫られるケースも発生している。もちろん、この制裁の中には、海外法令に対する日本企業の知識不足のケースもあるが、中にはそうでなく、国内産業の保護を目的にルール変更を行うケースもあると聞く。このような状況において、未熟練の外国人材の積極的な受け入れによって比較的安価な労働力を利用できる地域が国内に出現すれば、海外リスクの低減を求める日本企業の「国内回帰」促進に資する可能性が高い。その場合、開発と部品から製品までの一貫した生産である「垂直統合」が国内で再び強化され、生産効率向上や技術革新を得意とする日本企業はその「強み」を高めることができよう。

第2は、国内の設備投資の拡大である。そもそも、日本企業の海外移転の目的は、概ね2つある。1つは、海外での「販売」拠点としての足場を築くための移転である。もう1つは、国際競争力を高めるための「生産」拠点の移転である。この両者が融合しているケースもあるが、日本企業の「国内回帰」は後者のケースで起こる。この場合、生産拠点の海外移転の目的が労働コスト縮減であるならば、日本企業が海外展開して安価な外国人材を獲得するよりも、シンガポール等の外国人材活用策のように、外国人材に海外から日本へ来てもらう方が、国内の設備投資の拡大も期待でき、日本経済への効果が大きいケースも多い。

第3は、上記に付随するさまざまな需要喚起である。まず、設備投資拡大に付随して、生産拠点に配置される外国人材の管理を担う部門などの雇用拡大も期待できる。また、外国人材の居住施設や、その家族の消費や教育サービスなどの需要も発生し、その供給も必要となろう。さらに、その地域の生産性が向上すれば、さまざまな投資需要も高まるとともに、地価も上昇していくことが予想される。

また、日本の国際競争力強化のためには未熟練で安価な外国人材の活用ばかりでなく、彼らを統括する管理者や技術革新を担う技術者として、付加価値の高い外国人材の積極活用も重要である。現在、文部科学省を中心とする関係6省庁により、グローバル戦略や教育研究の国際競争力を高め、優れた留学生を獲得する観点から、2020年を目途に留学生30万人を目指す、いわゆる「留学生30万人計画」が進められている。しかし、彼ら日本で学んだ留学生が日本で就職し活躍する機会は限られており、せっかく日本語や日本の文化習慣を習得した外国人材を活かしきれていない現状がある。また、こうした状況は、外国人学生にとって日本が欧米に比して魅力的な留学先と映らない要因となっていると聞く。政府は、外国人留学生の国内就職の拡大やその環境整備をはじめ、留学生採用に前向きな企業の求人開拓やマッチングの強化を検討しているが、日本国内で外国人材を積極的に活用する地域を設けることで留学生の教育から就職までの流れが有効に機能すれば、未熟練な外国人材の管理者などとして、一定の質を有する外国人材も獲得できる好機となろう。

メガフロート等の最新技術も動員し、特定地域の創出を

以上のとおり、外国人材の積極活用は、さまざまな経路から国内経済を活性化することが期待できる。ただ、特定地域の選定が難航、あるいは、十分な土地面積をもたない地域が選定される可能性もある。このような状況において、特定地域の拡大方法の1つとして期待されるのが、「メガフロート」(Mega-Float)(注1)の活用である。メガフロートとは、超大型浮体式構造物で、巨大人工浮島とも呼ばれる。これまで日本では、海岸線の埋め立てや干拓によって土地を拡大し、港湾施設、工場、空港などの開発を行ってきた。このような開発は環境保護においてさまざまな問題があるので、沿岸開発の新手法として注目されてきたのが、メガフロートである。これまでいくつかの開発実績があり、最近では、羽田空港の新滑走路設置でもメガフロート工法の利用が検討されたが、業界間での政治的利害関係などもあったとの噂もあり、最終的に採用は見送られた。だが、政治による明確なリーダーシップと現在の技術力をもってすれば、外国人材活用の受け皿となる特定地域の拡大にも活用できる可能性も秘めている。これは若干、大胆な提言であると認識しているが、いまこそ、このような新手法も念頭に、日本のもつ最新技術を総動員して、受け皿となる地域選定の検討を進めてみてはどうか。

2009年10月2日
脚注

2009年10月2日掲載

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