IoT, AI等デジタル化の経済学

第162回「DXからみたグローバル・ニッチトップ企業の日独比較(4)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

ITセキュリティについては、サプライチェーン内での情報共有は、生産性を向上させる一方で、IT攻撃のリスクもある。
「質問1:情報交換の開始とアクセス用デバイスIDの追加(許可されたデバイスとユーザーへの制限)」から「質問2:交換するデータの暗号化・復号化」、そして「質問3:継続的なモニタリングと安全性解析」へとデジタル化の度合いが高まっている。従って、3番目の「継続的なモニタリングと安全性解析」に一貫して回答できた企業が、最もデジタル化の度合いが高い。
全体として、ITセキュリティに関する質問の結果は肯定的である。ドイツ企業は、ITのリスク要因を認識し、適切な対策をとっている。この分野では非中小企業が中小企業より進んでいるとしても、ITセキュリティの水準は中小企業でも十分である。
データセキュリティに関する質問は、以下の質問で測定した。
①ミラーシステム
②バックアップ/リカバリー
③スナップショット拡張方式によるバックアップ/リカバリー
④トランザクションのレプリケーション
デジタル化の程度は、選択肢①から④まで増加する。従って、③番目の「継続的な監視と安全性分析」に一貫して回答できた企業が、最もデジタル化の度合いが高い。
中小企業と非中小企業の差はわずかである。従業員グループ別の分布や回答の頻度分布には例外は見られない。

図13:ITセキュリティ
図13:ITセキュリティ
図14:データセキュリティ
図14:データセキュリティ

標準化について、3つの質問を用意した。1つ目は「ビジネスプロセス間の接続要素を利用している」である。これは、接続する要素を、適切なインターフェースを使用することで、基幹業務システムと他の業務プロセスを接続することを意味する。2つ目は「現実空間の重要なイベント(情報発生点)はすべて、情報空間のイベント(情報発生点)を生成している」である。これは、インターフェースを介して、データやプログラム全体をERPシステムなどと連携させることができることを意味する。3つ目は「バリューチェーンやライフサイクルをデジタル化(ネットワーク化・リンク化)している。」である。これは、バリューチェーンとライフサイクルの連結において、購買、物流、生産などの水平統合や、製品や機械のシミュレーションによる開発などを、ますます強力に連携することで、ライフサイクルやバリューチェーンのデジタル化、メーカー間の連携が進み、新しい可能性が生まれていることを意味する。標準化の進展は、中小企業よりも非中小企業で著しく進んでいる。中小企業の35%はコネクタを使用せず、50%は現実空間の重要なイベント(情報発生点)で情報空間の情報ポイント(情報発生点)を生成しない。
インテリジェント・プロセス部品については、知能システム/機械設備を使って生産しており、マシンパークにおける知能システム/機械のシェアが高いほど実効性が高い。その段階では、センサーやアクチュエーターなどの技術を搭載し、外部環境とともに組織化し、データや情報を学習・処理し、自社の状態や状況を分析することができる。そのデータを基に、判断ができる。
知能システム/機械設備は製品より実効性が高い。中小企業は非中小企業に比べて、知能システム/機械設備や製品に関する実効性が劣っている。中小企業の43%は実質的に知能システム/機械設備を持たず、60%以上は実効性ある製品を持たない。また、従業員数250人以上499人以下の企業では、実効性ある製品のシェアが非常に低いことも注目すべき点である。

図15:標準化
図15:標準化
図16:インテリジェント・プロセス部品
図16:インテリジェント・プロセス部品

人とロボットの協働については、次の項目を質問として使用した。1つ目は「AR(Augmented Reality:拡張現実)」で、仮想の立体映像が、視聴者の現実世界に投影される。視聴者は、統合された要素により、仮想オブジェクトと対話することができる。オブジェクトは、リアルタイムで視聴者の環境に挿入される(例:スマートグラスを使用)。2つ目は「音声制御/ジェスチャー制御」で、機械の直感的なプログラミングや制御の方法の1つに、音声制御がある。音声による操作は、すでに日常生活の中で当たり前のものとなっている。ロボット工学の分野でも同様で、音声制御はすでにさまざまなアプローチで見受けられる。3つ目は「仮想現実:バーチャルリアリティー(VR)」である。これは、現実的な環境をシミュレートする高度なヒューマン・コンピュータ・インターフェースである。参加者は、仮想世界の中を動き回ることができる(例:VRグラス)。4つ目は、「直感的制御」で、多くの場合、プライベートな環境での直感的な操作に基づく使い勝手の向上がメリットとなる。革新的な操作上のコンセプトは、システムのコントロールに支援的に関与することにつながる。ここでの使用の対象では、先進的な技術の使用はほとんどない。従業員数1,000人以上の企業だけが、この結果でわずかに良い結果を出している。
ここでは、中小企業と非中小企業との差分を示す。中小企業と非中小企業の差はマイナス値で表示している。非中小企業はすべての領域で中小企業よりデジタル化が進んでいる。収益に占めるデジタルサービスの割合は、中小企業と非中小企業とでほぼ同じである。この結果は、提供されるサービスによって確認することはできない。この理由の1つは、非中小企業では、中小企業と比較して総収入が著しく高いため、デジタルサービスのシェアが低くなっているが、提供するサービスの範囲は中小企業と比較して著しく高いことが考えられる。プラットフォーム・サービスの分野では、非中小企業は中小企業より著しく高いパフォーマンスを示している。プラットフォーム・サービスの分野では、非中小企業は中小企業よりも著しく優れている。1.3561の差分は、調査全体で最も大きい。全体として、一部の例外(ITインフラと知識・能力管理)を除き、デジタル化の度合いには0.2以上の差があることが分かる。この結果は、非中小企業におけるデジタルトランスフォーメーションの進展が大きいことを裏付けている。

図17:人とロボットの協働
図17:人とロボットの協働
図18:サブカテゴリにおける中小企業と非中小企業の差
図18:サブカテゴリにおける中小企業と非中小企業の差

出典:
本稿は、政策情報学会誌第17巻P17-40に掲載された下記の研究者の共著論文である。

藤本武士(立命館アジア太平洋大学国際経営学部教授・立命館アジア太平洋大学次世代構想センター: APU-NEXT ディレクター)
岩本晃一(独立行政法人経済産業研究所リサーチアソシエイト・APU-NEXT 客員メンバー)
難波正憲(立命館アジア太平洋大学名誉教授・APU-NEXT メンバー)
Gerrit Sames, Dr., Professor(für allgemeine Betriebswirtschaftslehre mitam Fachbereich Wirtschaft an derTechnischen Hochschule Mittelhessen)(注1
Tim Maibach, MA(wissenschaftlicher Mitarbeiter am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen(注2

脚注
  1. ^ Gerrit Sames, Dr., ist Dekan und Professor für allgemeine Betriebswirtschaftslehre mit Schwerpunkt ERP-Systeme am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen Hochschule Mittelhessen und Leiter des Schwerpunkts Digital Business
    Anschrift: Technische Hochschule Mittelhessen, Fachbereich Wirtschaft, Wiesenstraße 14, 35390 Gießen, Deutschland, Tel.: 0641-309 2754, E-Mail: Gerrit.Sames@w.thm.de
  2. ^ Tim Maibach, MA, war wissenschaftlicher Mitarbeiter am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen Hochschule Mittelhessen, E-Mail: Tim.Maibach@gmx.de
    Anschrift: Technische Hochschule Mittelhessen, Fachbereich Wirtschaft, Wiesenstraße 14, 35390 Gießen, Deutschland; E-Mail: Tim.Maibach@gmx.de
参照文献
  • 木本、澤谷、齋藤、岩本、田上(2018)「日本の第4次産業革命におけるIT, IoT, ビッグデータ, AI 等デジタル技術の普及動向」 RIETI Policy Discussion Paper 18-P-019、2018年12月.
  • 花本、岩本(2021)「第126回『デジ真理』プロジェクト主催日独WEB カンファレンス『仕事の未来』」IoT, AI 等デジタル化の経済学、2021年2月9日、独立行政法人経済産業研究所ホームページ(https://www.rieti.go.jp/users/iwamoto-koichi/serial/126.html).
  • Simon, Hermann (2009), Hidden Champions of the 21st Century, New York: Springer
  • Dominik Lins; Christopher Prinz und Bernd Kuhlenkötter; Bo chum(2018), “Industrie 4.0-Umsetzungsstand bei Industrieunternehmen in NRW”, ZWF, Jahrg. 113 (2018) 5

2024年1月29日掲載

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