IoT, AI等デジタル化の経済学

第161回「DXからみたグローバル・ニッチトップ企業の日独比較(3)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

5.ドイツの分析

全体の概略として、「知的生産システムによる計画制御(2.37)」と「インダストリー4.0の戦略的・組織的な定着化(2.17)」のモジュールは、「ビジネスモデルの側面(1.80)」や「スマート工場・製品(1.70)」のモジュールよりも、全ての企業規模で平均してデジタル化が進んでいる。
図5の真ん中のグラフでは、企業を中小企業と非中小企業にサイズ別で区分した。中小企業は249名より少ない従業員数で、非中小企業は250名以上の従業員数とした。非中小企業は中小企業と比較して全ての分野でよりデジタル化されている。一部の例外を除き、大企業ほどデジタル化が進んでいる。
このグラフでは、2018年のビジネス・プロセス調査から採用または微調整された5つの質問が示されている。2018年調査と比較して、2022年調査では進捗が確認できる。4年間という期間では、その進歩はわずかであると評価せざるを得ない。
デジタル化の程度は、良くても最大値「4」のうち、おおむね「2」と「3」の間である。中堅企業では、業務は依然として従来のプロセスで行われており、既存のデジタル技術の利用は取るに足らない程度の進捗しか見せていない。
生産データに関する質問項目は、以下である。
1)製造データは保存され、文書化されている。
2)製造データは評価され、製造プロセスを監視および制御するためのベースとして機能する。
3)製造データは、製造プロセスを計画および制御するためのベースとして機能する。
4)製造データをベースにして、製造プロセスの計画および制御が自動で行われる。
ほとんどの企業が、生産データを計画・制御するためのベースとして利用している。非中小企業では42社中3社が「1」と回答しているが、中小企業では60社中20社が「1」と回答している。
データの使用と処理について、機械からのデータ取得の状況を見ると「プロセスの計画と制御を最適化するための手動データ処理」では、データは文書化されるだけでなく、すでに処理されている。手動データ処理は、デジタル化は成熟度が中程度と理解できる。

図5:ドイツの分析中小企業と従業員数による分類
図5:ドイツの分析中小企業と従業員数による分類
図6:ビジネス・プロセス
図6:ビジネス・プロセス

「自動データ処理」では、データは自動的に保存され、処理され、プロセスの計画と制御に使用される。製造データは、製造プロセスを計画および制御するためのベースとして機能する。傾向としては、プロセスの計画と制御のための最適化において、データを高度に活用するようになっている。非中小企業では、すでにデータの自動評価に向けて開発が進んでいる。自動データ処理を一貫して使用しているのは11社のうち7社が中小企業である。このことは、中小企業も自動データ処理を使いこなす能力があることを示している。一方、自動データ処理をまったく使用していない10社も全て中小企業である。
デジタルファクトリーについて、「工場内の機械設備のデジタルレイアウトの利用可能性」では、デジタルレイアウトは、生産監視などエンジニアリングの上位システムに、必要なデータを投影するために使用される。データは、多様な計画およびシミュレーションシステムから取得することができる。
機械設備のデジタルレイアウトは、中小企業よりも非中小企業でより一般的である。しかし、従業員数が10人以下の企業でも、少なからず導入されている。「センサーデータの自動的な記録(例:機械の温度)」は、中小企業より非中小企業の方が圧倒的に多い。
ビジネスモデルの側面について、サービスの提供についての質問には、ほとんどがデジタルサービスの発展で遅れている。中堅製造業の事業活動の中心は、まだ物理的な製品の販売にある。デジタルサービスを通じて顧客に付加価値サービスを提供する機能は少しずつ進んでいる。2020年と2022年での中小企業と非中小企業レベルでの比較はできない。非中小企業は、2020年時点ですでに中小企業よりもビジネスモデルの側面で進んでいたと推測できる。この傾向は2022年でも続いている。
中小企業(平均1.73)と非中小企業(平均3.08)の差は、調査全体でも最も大きい。

図7:生産データ
図7:生産データ
図8:データの使用と処理
図8:データの使用と処理
図9:デジタルファクトリー
図9:デジタルファクトリー
図10:ビジネスモデルの側面Ⅰ
図10:ビジネスモデルの側面Ⅰ

2020年にプラットフォームに関する3つの質問を行い、その結果を2022年の少し変更した1つの質問と結果を比較した。プラットフォームモデルへの参加やプラットフォームの運用は進んでいる。まだ改善の余地があるにせよ、わずか2年で明らかな向上が見られる。やや意外なのは、製品に搭載されているセンサーの装備に関する設問での減少である。ここでは、2020年と比較して2022年の質問に対する回答がわずかに減少しているが分かる。考えられる理由としては、2020年は製品そのものに搭載されているセンサーの有無について質問したが、今回の2022年の調査では、どちらかというと、より使い方に重点を置いており、考えられる結論としては、製品に通信可能なセンサーが搭載されているが、機械/システムメーカーは、データを収集または分析する機会をまだ活用できていないことである。
リーンマネジメントは、プロセス効率を高めるために試行され、実証された効果的な管理手法であるため、インダストリー4.0の定着化を支援することができる。ビジュアルマネジメントとは、目標・標準・仕様などの関連パラメータを視覚的に表現することである。ポカヨケとはプロセスや設計の特徴を利用して、その原因を突き止め、エラーや不具合を検出することである。中小企業と非中小企業のリーンマネジメントの分野では、その差は大きいと言える。インダストリー4.0の基本的な構成要素として、中小企業におけるリーンマネジメントの状況は不十分である。非中小企業の20%以下がビジュアルマネジメントを使用していないのに対し、中小企業では50%を超えている。ポカヨケのコンセプトでの使用では、使用していない中小企業の割合はさらに6割を超えている。非中小企業では同じく20%以下となっている。

図11:ビジネスモデルの観点Ⅱ
図11:ビジネスモデルの観点Ⅱ
図12:リーンマネジメント
図12:リーンマネジメント

出典:
本稿は、政策情報学会誌第17巻P17-40に掲載された下記の研究者の共著論文である。

藤本武士(立命館アジア太平洋大学国際経営学部教授・立命館アジア太平洋大学次世代構想センター: APU-NEXT ディレクター)
岩本晃一(独立行政法人経済産業研究所リサーチアソシエイト・APU-NEXT 客員メンバー)
難波正憲(立命館アジア太平洋大学名誉教授・APU-NEXT メンバー)
Gerrit Sames, Dr., Professor(für allgemeine Betriebswirtschaftslehre mitam Fachbereich Wirtschaft an derTechnischen Hochschule Mittelhessen)(注1
Tim Maibach, MA(wissenschaftlicher Mitarbeiter am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen(注2

脚注
  1. ^ Gerrit Sames, Dr., ist Dekan und Professor für allgemeine Betriebswirtschaftslehre mit Schwerpunkt ERP-Systeme am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen Hochschule Mittelhessen und Leiter des Schwerpunkts Digital Business
    Anschrift: Technische Hochschule Mittelhessen, Fachbereich Wirtschaft, Wiesenstraße 14, 35390 Gießen, Deutschland, Tel.: 0641-309 2754, E-Mail: Gerrit.Sames@w.thm.de
  2. ^ Tim Maibach, MA, war wissenschaftlicher Mitarbeiter am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen Hochschule Mittelhessen, E-Mail: Tim.Maibach@gmx.de
    Anschrift: Technische Hochschule Mittelhessen, Fachbereich Wirtschaft, Wiesenstraße 14, 35390 Gießen, Deutschland; E-Mail: Tim.Maibach@gmx.de
参照文献
  • 木本、澤谷、齋藤、岩本、田上(2018)「日本の第4次産業革命におけるIT, IoT, ビッグデータ, AI 等デジタル技術の普及動向」 RIETI Policy Discussion Paper 18-P-019、2018年12月.
  • 花本、岩本(2021)「第126回『デジ真理』プロジェクト主催日独WEB カンファレンス『仕事の未来』」IoT, AI 等デジタル化の経済学、2021年2月9日、独立行政法人経済産業研究所ホームページ(https://www.rieti.go.jp/users/iwamoto-koichi/serial/126.html).
  • Simon, Hermann (2009), Hidden Champions of the 21st Century, New York: Springer
  • Dominik Lins; Christopher Prinz und Bernd Kuhlenkötter; Bo chum(2018), “Industrie 4.0-Umsetzungsstand bei Industrieunternehmen in NRW”, ZWF, Jahrg. 113 (2018) 5

2024年1月19日掲載

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