イノベーティブな企業の創出におけるビジネスグループの役割:部分所有子会社(PO)からのエビデンス

執筆者 金 榮愨 (専修大学)/長岡 貞男 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2020年2月  20-J-010
研究プロジェクト ハイテクスタートアップの創造と成長
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概要

本研究では、日本企業のマイクロのデータを用いて、企業創出におけるビジネスグループの役割を検証している。主要な知見は以下の通りである。第一に、ビジネスグループが創設あるいは運営に関与している部分所有子会社(PO)はイノベーションにおいて重要である。独立企業(Independent)を含めた新規設立企業全体において一定の閾値を超えた企業の19%がPO企業であるが、これらはR&Dで47%、特許保有件数で90%を占めている。

第二に、POガバナンスは新規企業育成の重要な手段を提供している。観測期間中に新規設立されたPO企業の中で、約23%は独立企業からの転換が起源であり、またPO企業の中で約8%の企業が独立企業となる。POになる独立企業は規模が大きく、研究開発水準が高い。産業と企業年齢でマッチングしたコントロールグループと比較した場合、POガバナンスとなった後に、R&D支出と特許保有件数は平均的に有意に減少するが、売上は増加し、利益率は改善する。この結果はグループ傘下になることの、研究開発等の重複排除効果を示唆している。同時に、移行時の自己資本の拡大の程度に応じて、子会社となった企業の研究開発は拡大し、利益率も改善している。また、親会社と同じ産業分野の独立企業が買収され、異産業に子会社として参入する場合、そのR&D支出と自己資本も大きく増加している。こうした点は内部資本市場がエクイティー資本不足を緩和できる効果を示唆している。

他方、POガバナンスの企業が独立する場合、産業、企業年齢に加え独立前の成長率でマッチングしたサンプルによって分析すると、研究開発投資と利益率は減少し、それは親会社と同じ産業のPO企業の独立の場合に顕著である。しかし、独立前の親会社出資比率が低いPO企業では研究開発投資の減少は小さく、特許保有件数を増加させるので、インセンティブ強化に反応する能力の重要性を示唆している。

第三に、技術資産の水準が高く、トービンのQが高く、多角化している親企業ほど研究開発集約的なPO子会社を創出する。親企業の固定効果をコントロールしても、研究開発規模、多角化は正で有意な係数をもっている。他方で、企業年齢は正で有意であり、従来のクロス・セクション分析が、企業年齢の効果については、符号も誤った結果をもたらすことも明らかになった。企業年齢の効果も含めて、親企業の技術資産の蓄積が重要であることを示唆しており、PO企業は既存企業の技術的なポテンシャルを顕在化していく上でも重要な存在である。