執筆者 | 山口 一男 (客員研究員) |
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発行日/NO. | 2019年9月 19-J-052 |
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概要
本稿は(1)就業企業の「観察されない」異質性は正規雇用者の男女所得格差に影響を及ぼすか、(2)もし及ぼすならば、どういうメカニズムで及ぼすのか、(3)男女所得格差を「企業内所得格差」と、男女の就業企業が異なることから生じる「就業企業の選択効果による所得格差」に分解する場合、企業内の男女の人的資本の違いを仲介変数として考慮すると、どのような成分があり、その影響度はどれほどか、(4)正規雇用女性の継続就業・離職を通じた就業企業選択は、「所得上より有利な企業にとどまる傾向」という合理的判断を反映するか否か、といった問いに一定の答えを与えることを意図している。
本稿は正規雇用者に関し、企業が所得にもたらす独自の影響と女性の就業企業の分布との関連の分析から、主として結婚や育児期の離職を通じて生じる女性の就業企業選択効果により、女性が所得効果上より有利な企業を選択しているという実証結果を得た。またこの女性の就業企業選択効果は、男性に比べ女性の人的資本が劣り、高い人的資本は所得上より有利な企業への就業に結び付いているという間接効果により相殺されてしまうため見えにくくなっているという点を明らかにした。またこの間接効果を取り除くことにより、女性の就業企業選択はそれがなければ、実際に生じた正規雇用者の男女所得格差を5%ほど増大させていたはずだという結論を得た。また本稿は以上の知見を得るために、社会的不平等の要素分解に関するDFL法の利用に関し、企業の異質性の影響をどう扱うかについての改良方法を提案し応用している。