政策評価のための「自然実験」の有効性要件と単一の「自然実験」による処置効果の分離・識別に問題を生じる場合の外部的有効性などを用いた対策手法の考察

執筆者 戒能 一成 (研究員)
発行日/NO. 2018年10月  18-J-030
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概要

政策評価などに用いられる「自然実験("Natural Experiment")」は自然的・経済的・社会的に生じた状況変化を利用して多数の要因が複雑に影響する事象から特定の要因による処置効果を識別するための分析手法の一つとして位置づけられる。「自然実験」の応用においては事象や制度変更と分析の整合性など幾つかの確認を要する点が存在し適用すべき計量分析手法を適切に選択する必要があるなどその応用における内部的・外部的有効性に関する問題が知られている。

本研究では、主要英文誌における社会科学系の文献のうち「自然実験」を用いた近年の先行研究62例における内部的・外部的有効性に関する検討・確認や計量分析手法の適用について整理・察し、当該結果に基づいて内部的・外部的有効性を確保しつつ「自然実験」を用いた識別を行うための標準的推計手順を整理した。更に類似する「自然実験」の結果を複数用いて特定の処置効果に関する外部的有効性などを確認し同時発生・混在した処置効果から特定の処置効果を分離・識別する新たな推計手法を開発した。

当該新たな手法の実用性とその限界を確認するため、実際に事象が同時発生し単一の「自然実験」では識別が困難な東日本大震災・福島第一原子力発電所事故による農産物の卸取引需給への影響について、中越地震や熊本地震などによる同種農産物の卸取引需給への影響の外部的有効性を確認し震災と原子力発電所事故の影響を分離・識別する実証実験を試みた。

当該結果から、異なる「自然実験」間の完全な外部的有効性が確認できなくても影響規模又は影響期間の範囲など実務上有益な情報が確認できる「部分外部的有効性」と呼ぶべき場合があることが判明した。今後、各種の制約により実験室実験などの他の手法による処置効果の推計が困難な分野での定量的な政策評価において当該新たな分析手法の応用が期待される。