企業の本社移転行動と移転先の決定要因に関する分析:外形標準課税制度の影響と地域間格差の視点から

執筆者 名方 佳寿子 (摂南大学)
発行日/NO. 2016年10月  16-J-055
研究プロジェクト 法人税の帰着に関する理論的・実証的分析
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概要

中央集権体制の日本では地域間の税率の差はほとんどなく、企業が本店、事業所、工場などの立地を決定する際に地域間の税率の差を考慮する必要はなかった。しかし、2004年に「外形標準課税制度」が導入され、地方政府(都道府県)は法人事業税の税率などの決定に関して裁量権を増やすことになり、地域間で法人実効税率の格差が生じる可能性が出てきた。

本稿では、この「外形標準課税制度」の導入によって、企業の本店移転行動がどのように変化したかを分析する。具体的には、経済産業省の「企業活動基本調査」の個票データを主に用い、(1)どのような企業が本店を移転するのか、(2)どのような特徴を持った県に企業は本店を移転するのか、(3)外形標準課税制度の導入前と後では企業の本店移転行動に変化はあったか、(4)東京都や大阪府など経済の中心県に本店を移転する企業と、それ以外の県に移転する企業との間では移転目的や企業の特徴に違いはあるかという4項目についてDiscrete Choiceモデルに基づいて分析をする。

本稿の分析により、中央集権体制から地方分権体制へと移行した場合の租税競争の有無を予測することができ、また地方圏へ企業を誘致するために必要なインフラ・税・補助金などの政策を考案し、地域間格差の問題を是正する糸口を見つけることができる。