執筆者 | 山口 一男 (客員研究員) |
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発行日/NO. | 2016年1月 16-J-001 |
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概要
本研究は主として2005年の社会階層と移動調査(SSM2005)を用いて、わが国における男女の職業分離について以下の事実を明らかにした。専門職を、ヒューマン・サービス専門職(教育・養育、医療・健康・看護、社会福祉の専門職)でかつ最も地位の高い職(医師・歯科医師、大学教授)を除くタイプ2型の専門職、その他の専門職をタイプ1型の専門職に分け、米国の2010年人口センサス結果と比較すると、タイプ2型の専門職や事務職に女性が男性より多いという特徴は日米共通であるが、男性の割合が大きいタイプ1型の専門職割合では男女格差が日本は米国より遙かに大きい。管理職割合の男女格差も同様である。またわが国について人的資本や就業時間を制御して、職業別の男女の所得格差を見ると、タイプ1型の専門職内で格差が最も小さく、経営・管理職がそれに続き、女性割合の多いタイプ2型の専門職や事務職を含む他の職では格差が極めて大きい。タイプ2型の場合の専門職女性は平均所得が男性のブルーカラー職を下回るという異常な現実がある。従って女性は職業分離のあり方を通じて所得について2重にハンディキャップを負っている。即ち一方で職業内男女賃金格差の比較的少ない職(タイプ1型の専門職と経営・管理職)では女性割合が極めて少なく、他方で女性割合の大きい職(タイプ2型の専門職と事務職)内では男女賃金格差が極めて大きい。
続いて、本研究は男女の職業分離が、人的資本(学歴、勤続年数、年齢)の男女差や、大学の学部専攻や高校のタイプの分離によってどの程度説明出来るかを分析した。結果としてパラドックスともいえるが、人的資本の男女の平等化は、男女の職業分離をかえって増大させることが判明した。これは女性の人的資本の増大が、女性に多いタイプ2型の専門職を増大させる度合いや女性に少ない作業職を更に減少させる度合いが、女性に少ないタイプ1型の専門職や管理職を増大させる度合いを上回るからである。一方、男女の専攻差に関しては、理工学部系女性大卒者の割合が極めて少ないことが、タイプ1型の専門職の男女格差の最大推定値で約50%、男女の職業分離度の10~20%を説明し、他の男女の専攻の差はほとんど職業分離に説明力を持たないことが判明した。この結果いわゆる「リケジョ」の推進は、理工学系分野における女性の人材活用を通じて労働生産性向上に貢献することが期待されるだけでなく、男女の不平等の解消にも寄与することが示唆された。しかし、男女の職業分離は主として男女の教育課程における専攻の違いではなく、労働市場において生じている。
本稿はさらに男女の職業分離の原因とそれが男女賃金格差に与える理論についてレビューし、実証結果との整合性を検討した。その結果女性に対する統計的差別理論と、企業が性別により職務の適性が異なると考え採用・配置を行うというステレオタイプ理論が共に当てはまるという解釈が最もわが国の実情と整合性を持つこと示す。