グローバル化と中国の経済成長

執筆者 伊藤 萬里  (研究員) /八代 尚光  (コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2011年1月  11-P-002
研究プロジェクト 国際企業・貿易構造の変化と市場制度に関する研究
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概要

近年、目覚ましい経済発展を遂げた中国は、世界経済に占める比重が高まり、日本との経済的な結びつきは急速に強まっている。日本の今後の成長を占う上でも中国の経済成長の持続可能性は重要な論点であり、そのメカニズムの解明は政策担当者と研究者から大きな関心を集めている。こうした観点から経済産業研究所は中国国務院発展研究中心と協力し、中国企業の国際化と経済成長の関係について企業データを活用した実証分析を行う共同研究プロジェクトを設置した。本稿ではこの中間的な成果と今後の研究課題を簡潔に紹介する。企業の国際化は、対内直接投資を通じた外資企業の活動が促進することと、中国企業自らの輸出や対外直接投資による海外市場への参入が想定される。第1に、我々は中国の産業活動に重要な比重を占める外資企業の活動が国内産業に成長にもたらす影響を検証した。その結果、外資企業の生産活動が国内産業の生産性を向上させていること、外資企業のR&D活動が国内企業のイノベーションを促進していることが示された。ただし実証結果は、その影響が外資企業の所有形態(独資か合弁)や出資元(香港・マカオ・台湾系かその他)、あるいは活動する産業(同一産業か川下・川上産業)によって異なることなど、影響の経路が複雑であることを示している。第2に、中国の輸出は一部のもっとも輸出額の大きい企業にその多くが集中していること、こうした輸出企業は国内企業に対して規模が大きく高い生産性と資本集約度を有していることが確認された。今後の研究課題として、中国企業の国際化と成長の因果関係をより精緻な分析により解明することが、中国企業の成長の持続性を評価する鍵となるだろう。