執筆者 |
黒田祥子 (東京大学) /山本勲 (慶應義塾大学) |
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発行日/NO. | 2009年8月 09-J-021 |
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概要
近年、一定の要件を満たすホワイトカラーの労働時間規制を緩和する「ホワイトカラー・エクゼンプション制度」の是非が議論されており、労働時間規制の適用除外によって労働者の働き方がどのように変わるかが論点となっている。そこで、本稿では、管理職や年俸制適用の労働者など、すでに労働時間規制の適用除外となっている労働者(ホワイトカラー・エグゼンプションが適用されている労働者)をトリートメント・グループ、それ以外の労働者をコントロール・グループとし、両グループで労働者の働き方が大きく異なるかどうかを検証した。検証の結果、ホワイトカラー・エグゼンプションが労働時間に与える影響は、どの労働者に対しても等しいものではなく、属性によって異なることがわかった。具体的には、ホワイトカラー・エグゼンプションが適用されている場合、(1)年収の低い労働者や卸小売・飲食・宿泊業で働く労働者、大卒以外の学歴の労働者などでは、ホワイトカラー・エグゼンプションによって労働時間が長くなる傾向がある一方で、(2)年収の高い労働者や大卒労働者については、逆に労働時間が短くなる傾向がある。このうち、(1)の労働者については、fixed-jobモデルが成立しており、平均的にみれば、ホワイトカラー・エグゼンプションの適用で労働時間が長時間化した分は、基本給の上昇によって補償されている可能性が示唆された。また、(2)の労働者については、労働時間が長くなることによって昇進確率が有意に高まるトーナメント・モデルが当てはまり、昇進に至るまでの出世競争が労働時間を長時間化させている可能性が示された。