企業出荷価格の粘着性-アンケートとPOSデータに基づく分析-

執筆者 阿部修人  (一橋大学) /外木暁幸  (一橋大学) /渡辺 努  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2008年10月  08-J-057
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概要

本稿ではわが国の食品・日用雑貨を生産・出荷する企業123社を対象として価格設定行動に関するアンケート調査を行い以下のファインディングを得た。第1に、約9割の企業は原価や需要が変化しても直ちには出荷価格を変更しないという行動をとっており、その意味で価格は粘着的である。その理由としては、原価や需要の情報収集・加工に要する費用や戦略的補完性を挙げる企業の割合がそれぞれ約3割であり、粘着性の主因である。一方、メニューコストなど価格変更の物理的費用は重要でない。第2に、価格の変更頻度については、過去10年間で出荷価格を一度も変更したことのない企業が3割を超えており強い粘着性が存在する。この粘着性は他国と比較しても高い。第3に、アンケートの回答とPOSデータをマッチングさせることにより、メーカー出荷価格変更時における末端価格の反応をみると、統計的に有意な連動性は見られなかった。また、末端価格の変更頻度は出荷価格の変更頻度を大きく上回っている。これらの結果は、末端価格の変動の大部分がメーカー企業ではなく流通企業の行動を反映していることを示唆している。