法と経済学の視点から見た労働市場制度改革

執筆者 樋口美雄  (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2008年10月  08-J-056
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概要

本稿では法と経済学の視点から、労働市場の二極化問題を取り上げ、実態を観察した上で、これを引き起こしている景気循環的要因と構造的要因について検討し、実効性ある労働市場改革に求められる雇用政策や法体系のあり方について考察する。わが国では80年代以降、パート労働者の増加により非正規雇用が増加するようになったが、1997年の金融危機をきっかけに、非正規雇用の中でも有期契約に基づく労働者が増える一方、正規労働者は削減され、同時に労働時間の長時間化が目立つようになった。こうした背景には、日本経済の長期低迷による労働需要不足があったのとともに、コーポレートガバナンスの変化による人件費の引下げや固定費化の回避を求める企業の動き、さらには経済のグローバル化や技術革新の進展による個人の生産性格差の拡大がある。

雇用の量を拡大し、質を向上させるには、政府は経済環境の変化から取り残された労働者への就職支援・能力開発支援を行うと同時に、彼らを受け入れる雇用機会の創出が不可欠である。またパート労働者と一般労働者、有期雇用と無期雇用のバランスの取れた労働者保護規制や均衡処遇の促進、非正規労働者へのセーフティネットの拡充が重要である。さらに政策や法律の実効性を高めるには、従来から罰則と助成による仕組と同時に、企業は目標値を外部に公表し、それに向けて労使の話し合いを進め、社員意識を改革し、整合的な市場インフラを用意し、働き方を改善していく政府の新たな枠組作りが求められる。