日本のTFP上昇率はなぜ回復したのか:『企業活動基本調査』に基づく実証分析

執筆者 権 赫旭  (ファカルティフェロー) /金 榮愨  (一橋大学) /深尾 京司  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2008年9月  08-J-050
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概要

JIPデータベース2008を用いた成長会計分析によれば、2000年代に入って日本の全要素生産性(TFP)上昇は非製造業を中心に加速した。さらに2001年以降は製造業でも生産性上昇が回復した。また非製造業におけるTFP上昇は労働や、資本サービス投入、中間投入を減らす中で起きた。本論文では1994年から2005年までを対象とする『企業活動基本調査』個票データを用いて、このような日本のTFP上昇加速がどのようなメカニズムで生じたのか、どのような企業が生産性改善に成功したのか、を調べた。我々はまず、TFP上昇率を内部効果、再配分効果、参入・退出効果に分解する生産性動学(productivity dynamics)分析を行い、製造業・非製造業いずれにおいても、2000年代のTFP上昇の加速は、内部効果(企業内のTFP上昇加速)であるとの結果を得た。新陳代謝機能にはやや改善が見られたが、退出効果は2000年代も多くの産業においてマイナスであった。次に、内部効果がなぜ上昇したかについて存続企業にデータを限定して分析した結果、日本経済におけるTFP上昇率加速のかなりの部分が労働投入、資本サービス投入、中間投入等を減少させながら、生産量は維持または小幅の減少に留める、いわば企業内のリストラによって達成されたこと、そのようなリストラは、主にグローバルな競争圧力に直面する輸出企業、多国籍企業、研究開発を行う企業、等で行われたことを発見した。なお、負債比率が各産業内で上位25%以内と高い企業の場合には、他の企業と比較して、初期時点におけるTFP水準は著しく低いものの、好況期においてもすべての生産要素投入を大幅に削減することでTFPを上昇させたことが分かった。日本におけるゾンビ企業問題は、退出ではなくリストラによって解決の方向に向かっている可能性がある。