労働法学は労働市場制度改革とどう向き合ってきたか

執筆者 諏訪康雄  (法政大学)
発行日/NO. 2008年9月  08-J-048
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概要

伝統的な労働法学は、「労働は商品でない」とする国際機関ILOの立場と軌を一にして、労働市場を疑惑の目で見つめ続けてきた。主要な労働立法の目的規定に「労働市場」という用語が用いられることもなかった。労働法学の内部からは労働市場制度改革という考えは生まれにくかった。したがって、OECD諸国、EU諸国、ILOも労働市場制度改革は不可避だとする大勢となり、日本でもこれに呼応する動きが広がると、伝統的な立場の労働法学者はむしろ否定的な論調を張り、その問題点を容赦なく突いた。その理論的なバックボーンとなったのは、社会法として市場機能の問題点を補正するという基本的な立場への確信、市場機能には根本的な欠陥があると指摘する心理学、社会学、経済学、社会政策学などの流派であった。これに対して、労働市場制度改革を支持する考え方も労働法学の一部から表明された。社会法の基本的な役割を堅持しつつも、政府の失敗などにかんがみ国家(組織)と市場との間に適切なバランスを再構成することは不可避だとし、現実的な対応を考える立場などであった。理論的なバックボーンとしては、新古典派経済学の影響は否定できないが、それ以外の近時に発展してきた諸学問の流派も寄与をした。労働市場制度改革との関わりを中心に労働法学の流れと経済学などとの対話状況を素描する。