労働市場の改革

執筆者 八代尚宏  (国際基督教大学)
発行日/NO. 2008年8月  08-J-040
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概要

労働市場の規制緩和が所得格差の拡大をもたらしたといわれている。しかし、非正社員の傾向的な増加の基本的な要因は、経済成長の長期停滞による雇用需要の減少にもかかわらず、過去の高い成長期の雇用慣行が不変にとどまっていたことによる面も大きい。労働市場全体ではなく、特定の企業内での雇用安定を目指すことは、結果的に企業の内と外の労働市場を分断させ、所得格差を広げる大きな要因となる。

経済活動のグローバリゼーションと人口の少子高齢化が同時に進む中で、個々の産業内の労働生産性の引き上げだけでなく、生産性の低い分野から高い分野への円滑な労働移動が、賃金水準引き上げを通じた格差是正の基本となる。

雇用保障の代償に拘束性の強い働き方の正社員だけを「良い働き方」と見なし、それ以外の派遣労働等を不安的な「悪い働き方」として、規制を強化する動きが強まっている。しかし、そうした手法で1700万人の非正社員の正社員化を目指すのは、とうてい現実的な政策とはいえない。むしろ、正社員・非正社員の区別なき、多様な働き方を前提とした均等ルールの設立や、正社員以外の労働者への雇用・社会保険の適用拡大を促進することが、本来の労働市場改革の目指すべき方向となる。