経済グローバル化の構造-企業、主権国家、国際組織によるマルチプル・ゲーム-

執筆者 白石 重明  (上席研究員)
発行日/NO. 2008年7月  08-J-037
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概要

本稿は、経済グローバル化の構造を、企業、主権国家、国際組織によるマルチプル・ゲームとして分析する試みである。

マルチプル・ゲームのプレイヤーについては、以下のとおり想定する。

  • 企業:個性的なリソースとリスクを戦略基礎として、事業のリディフィニション(再定義)とリロケーション(地理的再配置)という戦略行動を行う「2R-2R」のダイナミズムによって利潤最大化を図るプレイヤー
  • 主権国家:リアリズム原理に基づいて国益増大を図るプレイヤー
  • 国際組織:リベラリズム原理に基づいて主権国家の枠を超えた全体の利益増大を図るプレイヤー


本稿では、経済グローバル化の重要な一態様であるクロスボーダー M&Aを念頭に、(1)安全保障上の審査、(2)民間企業間のやり取り、(3)競争政策上の審査、という3つのフェーズに分けて、経済グローバル化の進展構造を展開形ゲーム表現によって記述する。

本稿の分析において得られる含意は、以下のとおりである。

  • 安全保障上の外資規制に係る事案評価は、主観的価値判断を伴う。
  • 十分な強度がない国際組織に大きな期待と負担をかけることは望ましくない。
  • M&Aの具体的な期待利得情報が得られれば、フェーズ2(民間企業間のやり取り)の帰結の予測や、企業戦略実務としてM&A提案のアセスメントがゲーム理論により可能である。
  • M&Aが買収側と被買収側の双方に望ましい結果をもたらすためには、進化経路依存性のあるリソースやリスクを含めた企業情報の十分な開示が必要である。
  • 被買収側にとっても利潤最大化に資するようなWIN-WINのM&A提案でなければ買収側にとって最も望ましい結果は得られない。
  • M&A提案は、競争政策当局によって容認される内容であることが企業戦略的には望ましく、当局の判断に関する予測可能性を高めることが重要である。
  • M&Aと競争政策との関係は具体的な市場状況等に左右される。国際組織にどのような権能を与えるかといった問題の検討に際しては、この点に留意する必要がある。


本稿で試みた分析手法は、経済グローバル化をめぐる種々の問題について応用が可能であり、今後具体的なケーススタディ等での活用が期待される。