投資協定仲裁手続のインセンティブ設計

執筆者 清水 剛  (東京大学)
発行日/NO. 2008年6月  08-J-028
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概要

本稿は、投資協定における投資家対国家間の仲裁(投資協定仲裁)がどのような機能を果たしているか、あるいは仲裁に関する具体的な制度設計、とりわけ仲裁と国内における裁判との選択を認めることがどのような意味を持っているのか、という点を投資家のインセンティブという視点から分析しようとするものである。

近年の投資協定の急速な拡大に伴い、投資協定における一般的な紛争解決メカニズムとしての投資協定仲裁も注目を集めている。しかし、この投資協定仲裁がいかなる機能を果たしているのか、あるいは具体的にどのような手続の設計にすればよいのかといった点に関する検討は必ずしも十分ではなかったように思われる。

本稿ではこのような点に関し、裁判と仲裁の特性の中でその「中立性」と「判断の安定性・予測可能性」という2つの要素に注目し、この2つの要素に関する裁判と仲裁の相違や裁判と仲裁との選択可能性が投資家のインセンティブにどのような影響をもたらすかを分析する。分析の結果明らかにされることは、仲裁を利用することは投資家にとって常に好ましいとは限らず、仲裁と裁判とを選択可能なことは投資家にとって常に好ましいが、その有用性は状況によって異なるということである。伝統的な投資協定が想定しているような「無能で不公平な裁判所と有能で公平な仲裁廷」という状況であればこの両者は投資家にとって好ましい結果をもたらすが、現在ではそのような想定は必ずしも成り立たない。この意味で、仲裁それ自体の機能や具体的な手続のあり方に関しては改めて検討していく必要がある。