エイジ・フリーの法政策―労働市場アプローチか、人権保障アプローチか―

執筆者 森戸英幸  (上智大学)
発行日/NO. 2008年5月  08-J-022
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿では、「年齢にかかわりなく働ける社会」を目指すエイジ・フリーの法政策の問題点と今後の方向性について、比較法的考察をも交えつつ分析を行った。欧米諸国のエイジ・フリー立法、すなわちアメリカの「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」やヨーロッパのEC指令及びそれに基づく各国の国内法では、「労働市場アプローチ」と「人権保障アプローチ」とをうまく組み合わせた政策が講じられている。しかし日本の雇用対策法(旧7条、現行10条による募集・採用時の年齢制限禁止)及び高年齢者雇用安定法(9条による高年齢者雇用確保措置義務、18条の2による年齢制限理由説明義務)によるエイジ・フリー法政策においては、このうちとくに人権保障アプローチを前提とする議論が不十分である。今後は、まず定年制に関しては、仮にそれを違法とするような立法を行う場合には、定年制の持つ雇用保障機能の消滅、解雇権濫用法理の変容などにより、「年齢にかかわりなくクビになる社会」を覚悟しなければならないという認識が必要である。次に募集・採用時の年齢制限については、雇用対策法ではなく、高年齢者雇用安定法の定める「理由説明義務」を政策の中心に据えることにより、「なぜ年齢制限を課しているのか」という問いに対する答えを企業自身に見つけさせるような方向が検討されるべきである。いずれにせよエイジ・フリー社会はすでに世界的なトレンドなっている。来るべきエイジ・フリー社会に備えて、日本の労使も制度的かつ精神的な準備をしておくべきであろう。