執筆者 |
神林龍 (一橋大学) |
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発行日/NO. | 2008年5月 08-J-021 |
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概要
1990年代の不況に入り、日本において解雇される労働者の数は格段に増加した。他方で、労働争議・訴訟という意味での解雇紛争が提起される比率は継続的に下落している。確かに、一見すると2002年以降に解雇者数に対する訴訟比率は増大するが、これは個別相談窓口の開設による司法資源へのアクセス費用の低下による数量の増大が主要因であって、法規範に動揺が生じたわけではないことが推測される。このように、解雇紛争を全体的に眺めると、解雇権濫用法理を中心とした判例法理が確たる地位を築き、それなりに強固な社会規範を提供し続けていると考えられる。ところが、同時に紛争の個別化は着実に進行しており、そこで集団的コミュニケーションが果たしている役割は定かではない。現在の労働法規制は、集団的コミュニケーションを基礎にして社会規範を定立することに多くを依っているが、解雇紛争の推移を考察することを通じて、集団的コミュニケーションのあり方に関する論点を提示できる。