労働市場改革と労働法制

執筆者 小嶌典明  (大阪大学大学院)
発行日/NO. 2008年5月  08-J-016
ダウンロード/関連リンク

概要

企業には何ができ、何ができないのか。このことをもう一度、国を挙げて冷静に考える必要がある。「今、我々に求められているのは、エビデンスに基づく冷静な議論であって、直感に訴える感情論ではない」。前世紀末に、当時の規制改革委員会が指摘したこのような状況は、現在も基本的に変わっていない。

「できること」を実行しない企業が責められるのは当然としても、「できないこと」まで要求されると、現場は立ち往生するしかない。頭のなかで考えた理想や理論を現実に無理に当てはめようとしても、うまくいくことはほとんどない。パートを始めとする非正社員の問題一つをとっても、現行制度の縛りから自由になれない、いわばロック・イン状態にある企業においては、採り得る選択肢にも限界がある。

たとえば、非正社員の正社員化という考え方がある。この考え方が仮に一般論としては正しいとしても、これを一律に適用すること(one-size-fits-all)にはそもそも無理があり、必要な場合には、緩衝材=潤滑油として、適用除外を認める等の措置が講じられなければ、結局はそのすべてが絵に描いた餅に終わる。

企業には何ができ、何ができないのか。このことを冷静に考えることが、企業で働く者にとっても、その待遇改善につながる最も早い道となる。