日本の労働市場制度改革-問題意識と処方箋のパースペクティブ-

執筆者 鶴 光太郎  (上席研究員)
発行日/NO. 2008年5月  08-J-015
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概要

本稿は欧米諸国の経験・実証分析や最近の経済学、特に市場がうまく機能するためにはその土台から支えるインフラストラクチャーとしての「制度」が重要であるという「比較制度分析」の基本認識に立脚し、日本の労働市場制度改革に求められる5つの視点を提示する。第1は、「インサイダー重視型」から「マクロ配慮型」に向けた労働市場制度改革である。インサイダーである正社員だけでなく非正規社員、企業、ひいてはマクロ経済全体へインパクトを考慮した改革である。第2は、「他律同質型」から「自律多様型」に向けた労働市場制度改革である。特に、正規・非正規の格差問題と労働時間の柔軟性化が大きな課題となる。第3は、「一律規制型」から「分権型」に向けた労働市場制度改革である。そこでは分権的な労使自治を基本としたルール作りや問題解決を促進するため、労使間コミュニケーションの円滑化・充実、プロセス・手続き重視型の雇用ルールの設定がかぎとなる。第4は、「弱者」から「エンパワー化された個人」に向けた労働市場制度改革である。個々の労働者の交渉力を向上させる能力開発や外部労働市場の整備が重要となる。第5は、「縦割り型」から「横断型」に向けた労働市場制度改革である。労使の「綱引き」、「ゼロサム・ゲーム」を超えて広い視野に立ち、透明性の高い改革プロセスを実現することが求められている。