大学もしくは公的研究機関と民間企業との共同出願特許の分析

執筆者 玉田 俊平太  (ファカルティフェロー) /井上寛康  (同志社大学)
発行日/NO. 2008年2月  08-J-003
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概要

1つの製品に用いられる技術の多様化と高度化により、企業がイノベーションに必要な技術や科学的知見をすべて自社内でまかなうことが困難になってきている。一方で、複数の組織が連携するためにはコーディネーションのためのコストがかかる。本論文では、どのような場合に企業がコーディネーションコストを払っても大学や公的研究機関と連携するのかについての知見を得るため、国内の民間企業と大学もしくは公的研究機関によって共同出願された特許(産学連携特許)の分析を行い、次の結果を得た。(1)経年による遷移の分析の結果、全体の特許出願件数が増えており、産学連携特許件数も増加傾向にある。複数の組織が連携して行った出願に占める産学連携特許の比率は、1998 年以降増加傾向にあった。(2)産学連携特許が出願された技術分野は一部の分野に集中しており、遺伝子工学関係、化学関係、電子工学(半導体プロセス)関係、土木工学関係等であった。このような特徴になる理由として、学においてこれらの分野が強いことが考えられる。実際、産学連携特許の分野の分布は、産の特許の出願分野分布よりも、学の特許の出願分野分布に近い傾向があった。(3)多くの技術分野に特許を出願している企業ほど、多くの産学連携特許を出願していた。すなわち、幅広い分野の研究開発を行う企業ほど大学や公的研究機関の助けを必要としている。一方で、産の研究開発の分野が広くなるにつれて、各企業の特許全体に占める産学連携特許の割合は低下した。これは上述のように、学の強い分野が限られていることと、組織を超えた暗黙知の伝承にはコストがかかることから、産学連携は分野を絞って戦略的に行われているためであると考えられる。