最適電源構成モデルを用いた卸電力取引市場の経済厚生の評価分析

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2007年11月  07-J-044
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概要

2000年度からの電気事業制度に関する制度改革により産業用電力について小売が部分自由化され、2005年4月からは日本卸電力取引所での取引が開始されているところである。

当該卸電力取引所は、卸電力取引の指標価格の形成、販売・調達手段の充実を目的として任意市場の形で設立されたが、同所での取引を含めた卸電力取引市場での競争が活性化され経済厚生が維持向上されているか否かについては、定量的・客観的にこれを評価分析し必要があれば卸電力取引に関する制度のあり方を見直していくことが必要である。

また、我が国の地域間連系送電系統のうち東日本(50Hz)/西日本(60Hz)地域間の周波数変換設備の容量は他の送電系統と比べ非常に小さいため、「東西市場分断」による卸電力取引の経済厚生上の影響が懸念されているところである。

こうした問題を評価分析する1つの手法として、本稿では一般電気事業者の財務諸表や本貿易統計などに基づき電源別・時間帯別の発電費用を推定する最適電源構成モデルを構築し、同所での約定数量・価格実績から推計した時間帯別電力需要曲線を推計して地域別・時間帯別の限界費用などの費用・価格指標を推計して卸電力取引所での取引実績値と比較することにより、卸電力取引の経済厚生と「東西市場分断」の影響の分析・評価を試みた。

2005・2006年度の2年間の評価分析の結果、卸電力取引市場は厳寒・豪雪であった2005年度冬期を除いて極めて競争的で買手が優位な環境にあったと評価された。当該期間を通じて売手側の固定費用は約65%程度しか回収されておらず、卸電力市場のうち常時バックアップ制度などの廉価な相対取引制度が取引価格に大きな影響を及ぼしているものと推察された。

また、卸電力取引の「東西市場分断」については、明らかに市場分断の影響が観察されたが、現状では当該分断による影響額は非常に小さいと評価された。

今後、卸電力取引市場では売手側の固定費用回収のため発電設備容量の下方調整が予想され、相対取引制度の改善と経済厚生の監視を引続き進める必要があると考えられる。