省エネルギー法に基づく業務等部門建築物の省エネルギー 判断基準規制の費用便益分析と定量的政策評価について

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2007年10月  07-J-042
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概要

国土交通省・経済産業省においては、エネルギー・環境問題への対応方策の1つとして、省エネルギー法に基づき国内で新築や大規模改修される建築物のエネルギー消費効率の判断基準を定め、当該基準の遵守を建築主などに義務づけるという規制措置を実施している。

当該基準規制は罰則を伴わない努力義務ながら現在70%以上の遵守率で履行され相応の成果を挙げているとされているが、当該規制についての費用や便益が定量的に計測されておらず、基準適合率と省エネルギー量などの評価に留まっているなどの問題が存在する。

こうした問題を克服する1つの手法として、本稿では業務等部門の建築物を対象として、建築着工統計調査と総合エネルギー統計などの公的統計を基礎に、業務等部門建築物の業種別・用途別床面積、エネルギー消費量、床面積当新築工事予定額などを時系列で分析・試算し、当該判断基準規制の有無に応じたエネルギー効率のシナリオ間で比較を行うことにより省エネルギー法建築物判断基準規制の費用便益分析による定量的政策評価を試みた。

当該分析・試算の結果、当該規制について割引率2~4%で現在価値換算した費用便益差は費用が便益を上回る負の値となり、1999年に実施された新基準規制は、年平均約3000億円(割引率3%)の費用便益差により約9.5Mt-CO2のCO2削減が達成されており、その費用対効果は約3.2万円/tCO2であると推定された。また1993年に実施された第2次旧基準規制と新基準規制を合計して評価した場合、年平均約800億円(割引率3%)の費用便益差により約21.9Mt-CO2のCO2削減が達成されており、その費用対効果は約0.37万円/tCO2であると推定された。

当該試算の前提値を変化させて感度分析をした結果、費用対効果は実質経済成長率の変化に対して安定的であるが、エネルギー価格の変化や、特に電力消費のうちコンセント系消費など規制の影響を受けない部分の比率の想定や変化に対し結果が非常に不安定となることが観察され、今後業務等部門での詳細なエネルギー消費実態についての公的調査と新増築のみならず既存建築物での省エネルギー対策の促進措置が必要であることが示された。