二国間投資条約/経済連携協定における投資仲裁と国内救済手続との関係

執筆者 阿部克則  (学習院大学法学部)
発行日/NO. 2007年10月  07-J-040
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概要

本稿は、全世界に網目のように張り巡らされた二国間投資条約(BIT)と自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)における投資仲裁と国内救済手続との法的関係を精査し、両者の関係をどのように規定することが望ましいか検討することを試みたものである。投資家が投資仲裁(投資家対国家の国際仲裁手続)に紛争を付託するにあたっては、国内救済を完了することは要求されないが、他方で、国内救済手続と投資仲裁を同時に利用することに関しては、条約上、一定の制約がかかる。投資家にいかなる範囲の手続的選択肢が認められるかは、外国投資保護が実効的なものとなるかを左右する1つのポイントであり、ここ数年の投資仲裁事件においては、投資家又はその子会社によって国内レベルと国際レベルの双方で「平行する手続」を進めることが認容されるかが、管轄権段階で重要な争点となってきた。

各国のモデルBITと実際に締結されているBIT/FTA(EPA)の規定を網羅的に検討すると、投資仲裁と国内救済手続との関係の観点からは、投資仲裁規定は、(1)無規定型、(2)二者択一型、(3)国内救済手続放棄型、(4)平行手続許容型、(5)国内救済先行型に分類できる。無規定型条項と平行手続許容型の下では、「平行する手続」を進めることについて何らの制約もなく、二者択一型条項と国内救済先行型条項においても、国内レベルと国際レベルで請求原因や紛争当事者が異なれば別個の「紛争」とみなされ、「平行する手続」は許容されるので、投資家の手続的選択肢は相当程度広い。これらの条項の下では、ある外国投資に関する一連の事態に関して複数の「平行する手続」が同時に進行することが認められるので、投資家が「二重の救済」を得てしまうリスクがある。他方、国内救済手続放棄型条項の下では、いかなる「平行する手続」も認められないため、「二重の救済」のリスクは存在しないが、同時に、投資家が国際仲裁に提訴するにあたり、すべての国内救済手段が放棄されなければならないため、投資家の手続的選択肢はかなり限定される。

しかし、条約に基づく請求だけでなく、投資合意や投資許可に基づく請求をも国際仲裁に付託できるとする「国内救済手続放棄型」条項であれば、外国投資家に対する適切かつ正当な保護を与えると同時に、「平行する手続」にともなう法的不安定性を除去することにもなる。わが国が今後締結するEPA/BITにおいても、このタイプの仲裁条項を採用することが検討されるべきであろう。