国際制度としての地域貿易協定―日本の締結した経済連携協定の制度・構造の比較分析を題材として―

執筆者 小林友彦  (京都大学大学院法学研究科)
発行日/NO. 2007年9月  07-J-037
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概要

今日ますます関心の高まっている地域貿易協定(RTA)とは、国際法上いかなる存在なのだろうか。他の二国間条約と何が異なるのだろうか。RTAの制度・構造に関する諸規定の分析は、条約体制としての個々のRTAの性質および実効性を評価し、今後のRTA締結交渉において留意すべき要素を再確認する機会を提供する。本稿は、先行研究の蓄積が少なかった論点について、方法論の整備を試みつつ、複合的な視角からの実証分析を試行する。

まず、第I章において、問題状況を整理する。

次に、第II章において、RTAの制度的側面の分析方法を整理する。結果として、以下のような知見が得られた。第1に、分析対象及び分析視角を特定することによって、「WTOサイド」の分析とは異なる視座からRTAのあり様を虚心坦懐に眺める「RTAサイド」からの比較分析の有効性が示される。第2に、比較分析の切り口としては、(1)対象とする特定の国が締結したRTA同士の比較、(2)当該国とRTAを締結した相手国が第三国と締結したRTAとの比較、(3)RTA以外の関連条約との比較等を組み合わせた、複合的な比較分析を行うことが有意義である。第3に、RTAは日常的に運営し、発効後の変化に対応することによって規律の実効性を維持しつづけることが重要であるため、その「対外的側面」のみならず「対内的側面」への注目も必要である。

さらに、第III章において、RTAの関連規定の比較分析を行う。結果として、以下のような知見が得られた。第1に、他条約との関係に関して、日本の締結した経済連携協定(EPA)は、その過半数がWTO協定優先条項を置く等、WTO協定の優越性を認める姿勢が顕著に表れている点が特徴的である。これと対照的に、WTO協定以外の他条約との関係については不明確性が大きい。第2に、運営制度に関しては、効率性および実効性に対する問題関心から、柔軟な運用が可能な制度となっている点が特徴的である。他方で、それは制度の不確定性を内包しており、かえって実効性を高めづらくなる可能性がある。第3に、RTAの発効後の変更に関しては、「改正」について柔軟な制度を設ける一方で、「加入」に関しては柔軟性が乏しい点が特徴的である。RTA発効後の状況変化に対応するために、制度面でさらなる検討が必要である。

最後に、第IV章において、以上の分析を要約した上で、今後のRTA交渉への示唆を提示する。