買収防衛策導入の動機―経営保身仮説の検証―

執筆者 滝澤美帆  (学術振興会特別研究員) /鶴 光太郎  (上席研究員) /細野 薫  (学習院大学経済学部)
発行日/NO. 2007年8月  07-J-033
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概要

本論文は、2005年度、2006年度に敵対的買収防衛策を導入した企業の特徴について分析を行った。敵対的買収防衛策導入の動機を、(1)企業パフォーマンスの不振、(2)経営保身目的、(3)その他被買収確率に影響する要因、に分けて分析を行った結果、次の結果が得られた。第1に、ROAやトービンのQなどで測った企業パフォーマンスが悪化した企業が買収防衛策を導入するわけではない。第2に、社齢が長い企業、役員持ち株比率が低い企業、持合株式比率が高い企業ほど買収防衛策を導入する傾向が強く、経営保身や株主との利害対立が買収防衛策導入に影響を与えていることを示唆している。第3に、支配株主の比率が低い企業、機関投資家比率の高い企業ほど買収防衛策を導入しており、株式保有が流動的で買収されやすい企業ほど買収防衛策を導入している。

このように、経営怠慢による買収脅威の高まりに対して「隠れ蓑」、「塹壕」として買収防衛策を導入しているわけではないが、特に、持合比率の高い企業ほど買収防衛策を導入しやすいという結果は、経営保身目的を示す顕著な証拠といえる。

敵対的買収の現実化の中で企業同士の株式持ち合いが再び復活してきていることが指摘されている。こうした中で、もともと株式持合で経営者の「塹壕」を築いてきた企業がさらに買収防衛策でその「塹壕」を強化しようとしている。買収防衛策導入にはそれなりの固定コスト負担が伴い、規模の小さい企業は相対的に不利になることも考え合わせれば、企業が個別にポイズンピル型買収防衛策を導入するのではなく、公開買付ルール(特に、全部買付義務)の強化を図ることで濫用的な買収を排除していくという視点(鶴(2006))も重要であろう。