遺族年金改正のシミュレーション分析

執筆者 深尾 光洋  (ファカルティフェロー) /中田 大悟  (研究員) /蓮見亮  (経済産業研究所/慶應義塾大学大学院商学研究科/日本経済研究センター)
発行日/NO. 2007年5月  07-J-020
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概要

本論文では、遺族年金制度について今後あり得る改正案が年金財政の安定性と世代間・世代内の公平性にどのような影響を及ぼすのか、という点について議論する。ここで検討するのは、(1)欧州並みに遺族年金給付を夫の給付の50%程度に削減する案、(2)遺族に対する給付を遺族給付という形式ではなく夫婦世帯が得る年金給付は拠出負担を問わず夫婦共同で納めたものと見なす2 分2乗式の年金給付に改める案、(3)スウェーデン方式を範として扶助原理に基づく遺族給付を厚生年金保険制度から分離し厚生年金を保険原理に基づく給付により純化させる案、の3案である。

得られた結論は次の通りである。まず、現在の公的年金制度が基礎年金制度という全ての年金受給者が受給する基礎的給付にかかる負担を各年金間で分配する制度の上に成り立っている限り、マクロ経済スライドの適用期間の削減を検討することは、国民年金制度の破綻を招くことから不可能である。よって、これらの改正案の実施に際して厚生年金保険料負担の軽減で対応することが妥当であり、それぞれの改正案に基づけば相当程度の保険料引き上げスケジュールの前倒し停止が可能である。さらにそれに付随する効果として、現在の有限均衡方式の下で莫大な規模にふくれあがることが予想される公的年金制度の積立金額を幾分か軽減させることができる。これより運用収益のぶれにより生じるリスクを軽減・回避させる効果が期待できる。

さらに、厚生年金の収益性について各改正案の下で世帯類型内および世帯類型間で世代別にどのような影響が生じるのかも検討した。各改正案の実施により中高齢世代のモデル世帯を中心に収益性が悪化する受給者が存在するが、若年世代を中心に保険料負担の軽減の恩恵を受ける世帯が多く出現することと、有限均衡方式のもとで主に若年世代が中高齢世代が残した積立金の取り崩しの恩恵を受けることの効果が相まって世代間の格差も若干縮小することが期待できる。また、当然ながら遺族年金給付の削減・分離によりモデル世帯とその他の世帯類型間の格差は概ね縮小していくことが確認された。