社会資本の都心生産性向上効果:集積の利益を考慮した測定

執筆者 八田 達夫  (ファカルティフェロー) /加藤秀忠  (国際基督教大学)
発行日/NO. 2007年3月  07-J-011
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概要

本稿では、社会資本の充実がもたらす都心のオフィス業務の生産性向上効果を、集積の利益を考慮した上で、分析する。その結果、集積の利益を考慮した上でも、社会資本の限界的な生産性向上効果が、大都市で大きく、地方で小さいことが示される。

都心の成長は、2つの外部効果を通じてオフィス業務の生産性を引き上げる。

第1の外部性は、地域全体における集積の利益である。1地区に多数の企業が集中して立地され、対面的な接触が容易になれば、企業間の交通費や取引コストが節約され、オフィスの生産性が高まる。

第2の外部性は、都市の成長に伴う社会資本の増大が引き起こす。例えば、インターネットなどの高速通信設備の整備は、高速な情報伝達を可能にし、企業の情報交換にかかるコストを大幅に引き下げる。

これまでの多くの研究は、第2の社会資本の生産性向上効果を測定してきた。そのような分析の多くは、社会資本の限界的な生産性向上効果が、大都市圏で大きく地方で小さいことを示している。しかしこれらの研究は、第1の集積の利益を考慮しておらず、社会資本以外の投入要素に関して生産関数は一次同次と想定している。このため、これらの研究で「社会資本の生産性向上効果」とされるものが、実は規模の経済を測定したのに過ぎないのではないかと指摘されることがある。 

本稿では、個票データを用いることによって、これら2つの外部効果を分離して測定する。それによって、社会資本の生産性向上効果を抽出し、その限界生産性を分析する。