日本の鉄鋼業の省エネルギー対策の費用対効果分析

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2006年12月  06-J-059
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概要

日本の鉄鋼業は、日本のエネルギー消費の10%を占めており、その省エネルギー対策の成否は地球環境問題をはじめとするエネルギー・環境問題を論ずる上で非常に重要である。

本稿においては鉄鋼業の環境自主行動計画による省エネルギー対策の進捗状況を公的統計から客観的・定量的に評価し、さらにその費用対効果の推計を試みた。

その結果、鉄鋼業の環境自主行動計画による省エネルギー対策により、1998年度から粗鋼1t当総合エネルギー消費原単位は急激に改善し、2005年度において1990年度を基準に約7%、1998年度を基準に約13%の改善が達成されていることが客観的資料から確認された。

当該対策に伴う費用については、鉄鋼業の設備投資など追加的資本費用とエネルギー操業費用の低減分から少なくとも約1753億円程度、近年のエネルギー価格高騰分を考慮しても約684億円程度であったと推計された。

これにより、鉄鋼業の環境自主行動計画による省エネルギー対策の費用対効果を推計すると約\124000/t-CO2、近年のエネルギー価格高騰を考慮しても約\64000/t-CO2となり、政府の税制・排出権割当制などの措置の未然防止という意味はともかく、内外のモデルによる限界削減費用試算結果や現実のEU排出権価格などと比べて著しく費用対効果の低い「割高で負担の厳しい」対策であると評価された。

これらの結果から、税制・排出権割当制などと比較して環境自主行動計画は実効性がないなどとする議論には根拠がないこと、鉄鋼業が環境自主行動計画によりこのような厳しい負担を厭わず着実な成果を挙げていることは評価しなければならないが、費用対効果から見た場合には今後の鉄鋼業の省エネルギー対策のあり方について再考の余地があることが示された。