製造業の開業率への地域要因の影響:ハイテク業種とローテク業種の比較分析

執筆者 岡室博之  (一橋大学大学院経済学研究科)
発行日/NO. 2006年6月  06-J-049
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概要

近年、開業率の低迷が続いているが、技術革新の主要な担い手である製造業において開業率の低下は特に深刻である。技術力の高い企業や事業所の開業は、地域経済の活性化のためにもきわめて重要であるが、地域間で開業率に大きな違いがあるにも拘わらず、新規開業の地域別要因に関する計量的分析は日本ではまだ少なく、業種別の開業分析はまだほとんど行われていない。本稿は、「工業統計表」の個票データを用いて、1998年から2000年までの2年間における製造業事業所の開業率の地域別決定要因を計量的に分析する。本研究の主な特徴は、分析単位の地域を都道府県よりも狭い工業地区に絞ったこと、分析対象を小規模な事業所の開業に限定したこと、および研究開発集約度によって製造業をハイテク業種とローテク業種に区別し、両者の比較を行っている点にある。最小二乗法によるクロスセクション分析の結果、事業所密度、製造業比率と平均規模は業種の技術的特徴を問わず製造業の開業率に有意に影響することが明らかにされた。ハイテク業種とローテク業種の違いは、失業率、大卒比率とハイテク業種比率の影響において明瞭に見られた。他方、期待利益と費用水準(賃金・地価)には有意な影響は見られなかった。以上の結果は、製造業の集積が開業の苗床として機能していたこと、またローテク業種における開業が 失業者によって部分的に支えられていることを示唆している。