地域貿易協定と多角的貿易自由化の補完可能性:経済学的考察と今後の課題

執筆者 椋 寛  (学習院大学経済学部)
発行日/NO. 2006年2月  06-J-006
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概要

本稿では、近年増加が著しい地域貿易協定(RTA)による貿易自由化と多国間の無差別な貿易自由化(=多角的貿易自由化)の補完可能性について、既存の研究を整理しつつ経済学的な視点から検証を行う。「次善の理論」が教えるように、RTAによる貿易自由化は経済的な効率性を改善するための最適な手段でないばかりか、世界経済の「意図せざる」ブロック化を招き逆に効率性を著しく悪化させる可能性がある。しかし、多国間交渉による自由化の機動性が失われがちな現状においては、RTAは各国の産業調整を推進したり、コミットメント効果により途上国の政策改革を促すことを通じて、多角的貿易自由化の「需要」を事後的に高める役割がある。特に、重複FTAによる自由化の拡大は政治経済的な自由化反対圧力や多国間交渉との代替性の問題を解消するため、大きな推進力となり得る。RTAの優位性を最大限活かすためには、途上国との積極的な締結を重視するとともに、原産地規則などの追加的費用をルールの整備等を通じて取り除いていく必要がある。