銀行の中小企業向け貸出のフロンティアを探る

執筆者 益田安良  (東洋大学 経済学部)
発行日/NO. 2005年11月  05-J-032
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備考

(この論文は経済産業研究所の研究プロジェクトの一つである「企業金融研究会」の成果の一部である。この研究会の成果の全体像と各論文の位置付け等についてはこちらを参照)

概要

中小企業のミドルリスク市場は、銀行の融資拡大の対象として期待されることが多い。しかし、中小企業庁『金融環境実態調査』を用いた分析によると、その規模は限定的である(典型的なミドルリスク市場は、推計では中小企業数全体の0.5%)。

また同調査の個票による分析では、全国銀行の貸出先に比べて、信用金庫・信用組合、ノンバンク、政府系金融機関の貸出先は財務力がやや劣る傾向がある。しかし、これらの市場は相当程度重複している。また、全国銀行の貸出は、評点第7分位の層から急減する。

これらを勘案すると、銀行が貸出拡大を図るには、銀行取引が無い企業群への新規参入よりも、既に銀行取引のある企業のノンバンク・政府系金融機関からの借入れの取り込みや評点第7分位以下の層への貸出増強の方が有効である。一定の前提の下でそれらの貸出増加効果を試算すると、増加率は計8.5%となった。こうした貸出増強は、銀行の貸出金利適正化が前提となる。貸出増加と金利適正化による銀行収益への影響を試算すると、全国銀行の利鞘は0.1%改善し、資金運用益は10.8%、業務純益は17.7%増加することになる。これは銀行の経営基盤を少なからず強化するであろう。

一方、上記の前提の下で中小企業(借り手)の経常利益は4.2%減少する。中小企業の資金繰り改善効果を考えれば、この程度の利益減少は景気拡大期であれば吸収可能であろう。

上記の状況を実現するには、地域金融機関はリレーションシップ・バンキングを徹底し、大手銀行はクレジット・スコアリングに特化するといった市場の棲み分けが進む必要がある。これによって中小企業向け融資における過当競争が是正され、銀行、信金・信組の貸出採算が改善し、結果的に中小企業の資金調達力も向上することが期待できる。