中・低所得国からの輸入競合度と企業成長:
『企業活動基本調査』個票データによる実証分析

執筆者 伊藤恵子  (専修大学経済学部)
発行日/NO. 2005年9月  05-J-028
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概要

1990年代以降、日本の貿易構造は大きく変化してきており、特に中国やASEAN諸国との機械類の貿易の増加が著しい。全体の輸入額に占めるアジアの低賃金国からの輸入の割合は、ほとんど全ての製造業部門で上昇しているが、特に機械産業での伸びが大きい。本稿では、低賃金国からの輸入品との競合が国内企業の成長に与える影響を検証するため、『企業活動基本調査』の個票データを使って、1990年代後半における企業レベルの雇用と売上高の成長率の決定要因を分析した。分析の結果、低・中所得国からの輸入品との競争が激しいような産業では売上や雇用の伸び率が小さくなる傾向が見られた。しかし、低・中所得国との輸入競合度が高い産業に属する企業の中でも、生産性が高い企業や海外現地法人との間で垂直的な生産分業を行っている企業、研究開発を活発に行っている企業では、売上に対するマイナスの影響が比較的小さくなっていることも示された。

また、アジア地域からの仕入れの多い企業では、雇用面ではマイナスの影響を受けているものの、売上の成長率については統計的に有意なマイナスの影響は見出されなかった。雇用では減らしているものの、売上ではそれほど減少させていないということは、アジアからの輸入が生産性の向上を引き出している可能性も考えられる。