無形資産の理解の枠組みと情報開示問題

執筆者 刈屋武昭  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2005年5月  05-J-019
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概要

本稿の狙いは、リスクアプローチによる企業の無形資産の識別法・測定法の開発と情報開示政策について議論を展開するための基礎的枠組を整理すること、無形資産による企業の価値創造プロセスを理解すること、その理解の視点から情報開示政策のあり方の考え方を模索することである。すなわち、企業の価値創造における不確実性(リスクと機会)と無形資産(インタンジブルアセット)の関係の理解の仕方と無形資産測定と価値評価についての概念的な枠組を求め、その理解の仕方と枠組の視点から企業無形資産に対する情報開示政策あり方を議論することである。キーワードは、価値を創り出すものと毀損するものとしての「知識とリスク」である。

ここで企業の価値とは、狭義においては将来の利益キャシュフローの現在価値(NPV:正味現在価値)であり、広義においては企業の活動に関係するステークホルダーの将来の価値のNPV全体である。資産は価値創造に貢献するものもしくはそう認識されるものである。 さらにリスクとは、企業の目的達成に影響を与え、将来の価値フローもしくは収益キャッシュフローに変動を与えるものをいう。価値は将来の不確実性に依存した確率的な変数であり、リスクは価値の下方への変動の大きさである。それゆえ価値とリスクはともにフォワード・ルッキングの視点に基づく事前的概念であることに注意する。

EU文書で記述されている無形資産へのアプローチは、知識・資源アプローチとして理解されるのに対して、研究プロジェクト全体としてはリスク・プロセスアプローチによる議論を展開する。本稿ではその基礎を議論する。