政策評価のための小規模ミクロ経済モデル
~乗用車部門における温暖化対策の評価~

執筆者 藤原 徹/蓮池勝人/金本良嗣  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2004年12月  04-J-046
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概要

本稿の目的は、政策評価の現場において活用可能な小規模政策評価モデルの構築法を解説することである。本稿が採用するアプローチは、政策評価に必要なフレキシビリティをもちながら、扱いの容易なCES型関数を用いて、完璧な整合性をもつ小規模モデルを構築するというものである。

政策評価モデルの例として、乗用車部門における温暖化対策の評価をとりあげる。まず、第1部で、簡単な1期モデルを用いてCES型効用関数を用いた小規模政策評価モデルの構築法を解説する。第2部では、このモデルを多期間に拡張して、政策評価モデルとして使うに足る現実性をもたせる。ただし、この多期間モデルも、基礎的なミクロ経済学・計量経済学を学んだ政策担当者やコンサルタントが活用できる程度にシンプルな構造としている。

現在、乗用車からのCO2排出は我が国における温室効果ガス排出の最も大きな増加要因の一つであり、その削減策は重要な政策課題になっている。本稿では、乗用車部門におけるCO2排出量削減のために自動車税制を用いる政策を評価する。

本稿のシミュレーション結果によれば、取得・保有段階の税を用いるよりも燃料税を用いる方が効果的にCO2の排出を削減できる。「グリーン」税制のように、税収中立性を維持しながら、燃費の悪い車に取得・保有税を重課する政策は、CO2排出量の削減効果がほとんどない(約0.1%)。ただし、燃料税の増税が相対的に効果的であるといっても、絶対的な効果は大きくない。単純に燃料税を増税する場合には、現行よりも25円/リットル増税することが望ましいが、走行距離の燃料価格弾力性が小さい(0.2程度)ので、CO2の排出削減効果は4.3%程度と小さく、税制の変更による社会的純便益も、自動車一台あたりで年間約360円と小さい。

現行の取得・保有税による歪みが大きいので、燃料税の増税と保有税の減税とを組み合わせた税収中立的な税制改革がファースト・ベストに近い便益を発生させる。最適な増税額は45円/リットルであり、約5.4%のCO2の排出削減効果と約1200円/台・年の社会的純便益が生じる。